第4話

4話 にゃんだふる、パニック
声が聞こえたのと同時に、
私は手首を強く引っ張られた。
野々村 姫
野々村 姫
わあ……!
よろめいて倒れそうになったとき、
私は誰かの胸にぽすんっとおさまる。

弾かれるように顔を上げると、
私は王牙くんのたくましい腕の中にいて、
心臓が大きく跳ねた。
佐伯 王牙
佐伯 王牙
少し目を離した隙に、虫がついたな
ちらっと優斗くんを見ながら、
悪態をつく王牙くんの胸を私は軽く叩く。
野々村 姫
野々村 姫
優斗くんは、
私のことを心配してくれたんだよ。
そんなふうに言わないで
佐伯 王牙
佐伯 王牙
……本当、お前って俺を煽る天才。
彼氏の前で他の男褒めるとか、
そういうプレイかなんか?
片腕で私を抱き寄せたまま、
王牙くんが強い力で手を掴んでくる。


なに……?


その行動の意図がわからず、
王牙くんの様子を窺っていると、
信じられないことに私の手首の肌をちゅっと吸った。
野々村 姫
野々村 姫
や、やめてよっ
佐伯 王牙
佐伯 王牙
躾のなってない犬には、
首輪が必要だろ
痕をつけるように強く口づけてくる
王牙くんに、私の頬はカッと熱くなる。

キスマークが首輪って、言いたいの!?

それを見ていた優斗くんは、
不愉快そうに眉根を寄せた。
藤堂 優斗
藤堂 優斗
女の子を乱暴に扱うな
佐伯 王牙
佐伯 王牙
ご忠告どうも、王子様
藤堂 優斗
藤堂 優斗
その呼び方、やめてくれないか
佐伯 王牙
佐伯 王牙
女子から、王子様って呼ばれてんだろ。
だったら、俺がそう呼んでもよくね?
バチバチとふたりの間に見えない
火花が散っているような気がした私は、
王牙くんに向かって叫ぶ。
野々村 姫
野々村 姫
もうっ、優斗くんに喧嘩売るの
やめて! 放課後は王牙くんの
言うとおり、空けとくから!
佐伯 王牙
佐伯 王牙
そいつを庇うのは納得いかねえけどな。
その調子で、俺に従ってろ
王牙くんは私を抱きしめたまま、
頬を指先でくすぐってくる。

その瞬間に全身を駆け抜ける
ゾクッとした甘い痺れに身をよじりながら、
私は王牙くんの胸を押し返した。
野々村 姫
野々村 姫
いまのは、場をおさめただけです。
勘違いしないで!
佐伯 王牙
佐伯 王牙
そういう強気なところ、
妙にハマるんだよな。
ぜってえ、屈服させたくなる
反省しない王牙くんに、
私がため息をついていると……。
藤堂 優斗
藤堂 優斗
…………
優斗くんは心配そうな眼差しで、
私を見つめてきた。
野々村 姫
野々村 姫
優斗くん、巻き込んじゃってごめんね
藤堂 優斗
藤堂 優斗
いや、むしろ俺は……
なにか言いたげな目を向けてくる
優斗くんに首を傾げていると、

王牙くんが私を抱えたまま、
くるりと背を向ける。
佐伯 王牙
佐伯 王牙
俺、自分のもんは
他人にやるつもりねえから。
わかったな、藤堂

私を隠しながら口端で意地悪く笑う
王牙くんを、優斗くんは黙ったまま
見据えていた。

***

放課後、王牙くんに連れ去られるように
してやってきたのは猫カフェだった。

私はビクビクしながら、周りをうろちょろと
歩く猫に身体を強張らせる。


私、猫苦手なんですけど……!


小学生のとき、
通学路でひっかかれたことがきっかけで、
猫が怖くてたまらなくなってしまったのだ。
野々村 姫
野々村 姫
あの……どうして、ここに?
これは拷問……魔王の新手のイジメ!?


怯えながら尋ねると、
王牙くんは興味なさそうにコーヒーをすすった。
佐伯 王牙
佐伯 王牙
女って、こういうの好きじゃねえの?
野々村 姫
野々村 姫
う、うーん……。
みんなが好きかどうかは、
わからなくないかなあ?
カタカタと声を震わせながら、
せっかく誘ってくれたんだし、
傷つけないようにしないとと返事をする。
佐伯 王牙
佐伯 王牙
可愛いものとか、やたらはしゃぐだろ
野々村 姫
野々村 姫
に、苦手な人だっていると思うな~
佐伯 王牙
佐伯 王牙
……なんかお前、様子おかしくね?
人の感情の機微になんて興味のない
王牙くんもさすがに気づいたのか、
カップを置いて私の顔をまじまじと観察する。
野々村 姫
野々村 姫
もう限界だから、白状するけど……
そう言いかけたとき、
ふさっと猫のしっぽが腕にあたった。

その瞬間、全身にゾワゾワッと鳥肌が立つ。
野々村 姫
野々村 姫
ぎゃあああっ
女の子らしからぬ悲鳴をあげて、
私は席を立つ。

その勢いに驚いたのか、
王牙くんはカップをガタンッと倒してしまった。
佐伯 王牙
佐伯 王牙
……っ、なんだよ!?