声が聞こえたのと同時に、
私は手首を強く引っ張られた。
よろめいて倒れそうになったとき、
私は誰かの胸にぽすんっとおさまる。
弾かれるように顔を上げると、
私は王牙くんのたくましい腕の中にいて、
心臓が大きく跳ねた。
ちらっと優斗くんを見ながら、
悪態をつく王牙くんの胸を私は軽く叩く。
片腕で私を抱き寄せたまま、
王牙くんが強い力で手を掴んでくる。
なに……?
その行動の意図がわからず、
王牙くんの様子を窺っていると、
信じられないことに私の手首の肌をちゅっと吸った。
痕をつけるように強く口づけてくる
王牙くんに、私の頬はカッと熱くなる。
キスマークが首輪って、言いたいの!?
それを見ていた優斗くんは、
不愉快そうに眉根を寄せた。
バチバチとふたりの間に見えない
火花が散っているような気がした私は、
王牙くんに向かって叫ぶ。
王牙くんは私を抱きしめたまま、
頬を指先でくすぐってくる。
その瞬間に全身を駆け抜ける
ゾクッとした甘い痺れに身をよじりながら、
私は王牙くんの胸を押し返した。
反省しない王牙くんに、
私がため息をついていると……。
優斗くんは心配そうな眼差しで、
私を見つめてきた。
なにか言いたげな目を向けてくる
優斗くんに首を傾げていると、
王牙くんが私を抱えたまま、
くるりと背を向ける。
私を隠しながら口端で意地悪く笑う
王牙くんを、優斗くんは黙ったまま
見据えていた。
***
放課後、王牙くんに連れ去られるように
してやってきたのは猫カフェだった。
私はビクビクしながら、周りをうろちょろと
歩く猫に身体を強張らせる。
私、猫苦手なんですけど……!
小学生のとき、
通学路でひっかかれたことがきっかけで、
猫が怖くてたまらなくなってしまったのだ。
これは拷問……魔王の新手のイジメ!?
怯えながら尋ねると、
王牙くんは興味なさそうにコーヒーをすすった。
カタカタと声を震わせながら、
せっかく誘ってくれたんだし、
傷つけないようにしないとと返事をする。
人の感情の機微になんて興味のない
王牙くんもさすがに気づいたのか、
カップを置いて私の顔をまじまじと観察する。
そう言いかけたとき、
ふさっと猫のしっぽが腕にあたった。
その瞬間、全身にゾワゾワッと鳥肌が立つ。
女の子らしからぬ悲鳴をあげて、
私は席を立つ。
その勢いに驚いたのか、
王牙くんはカップをガタンッと倒してしまった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。