第8話

8話 恋に気づくとき
あれ、なんで王牙くん顔が赤いの?
しかも、固まってるし……。


不思議に思って自分の言動を振り返っていると、
私はすぐに原因に思い当たる。
野々村 姫
野々村 姫
あ……好きっていうのは、
友達としてだから!
慌てて弁解したのだけれど、
王牙くんは聞いていない様子だった。
佐伯 王牙
佐伯 王牙
女なんて、みんな一緒だと
思ってたんだけどな
小さく笑った王牙くんが、
ふいに私の頬を手の甲で撫でる。

それにトクンッと、胸が静かに音を立てた。
佐伯 王牙
佐伯 王牙
本気の恋ってやつ、
実はちょっと掴みかけてる
野々村 姫
野々村 姫
え……
佐伯 王牙
佐伯 王牙
姫のことなら、
好きになれるかも……なんてな
野々村 姫
野々村 姫
な、なに言ってるの!?
どうせ冗談だって、わかってる。
ただ、私をからかってるだけだって。

なのに……。

大げさなくらいに飛び退いて叫んでしまう私に、
王牙くんはぶっと吹きだした。
佐伯 王牙
佐伯 王牙
慌てすぎ。
そういうとこ、可愛いよな
意地悪でもない、作り物でもない。

ただ、自然とこぼれたような無邪気な笑顔を前に、
私の心にはある想いが唐突にわき上がる。

あ、私……好きかもしれない。
王牙くんのこと。

王牙くんへの想いを自覚した瞬間、
全身からヤカンみたいに湯気が吹き出しそうになる。
佐伯 王牙
佐伯 王牙
なに、顔真っ赤にしてんの?
ニヤニヤしながら近づいてくる王牙くんに向かって、私はとっさに手に取ったプチトマトを突き出す。
野々村 姫
野々村 姫
それ以上言ったら、その口塞ぐからね
佐伯 王牙
佐伯 王牙
へえ、どうやって?
野々村 姫
野々村 姫
こうやって!
私はプチトマトを
王牙くんの口の中に突っ込む。
佐伯 王牙
佐伯 王牙
んぐっ……色気ない塞ぎ方だな
私の気持ちも知らないで……。

あからさまにがっかりする王牙くんに、
私はこっそりため息をついた。

***

王牙くんと付き合うようになって、
数日が経った。

今日も教室の入り口で女の子たちに
囲まれている王牙くんを、
自分の席から遠目に見つめる。

王牙くんは、なにも変わってない。
変わったのは私だ。

王牙くんが他の女の子と話していると、
胸が締めつけられるようになった。
藤堂 優斗
藤堂 優斗
野々村さん、大丈夫?
野々村 姫
野々村 姫
あ、優斗くん……
藤堂 優斗
藤堂 優斗
顔色が悪いみたいだけど
野々村 姫
野々村 姫
心配かけてごめんね。大丈……
藤堂 優斗
藤堂 優斗
そんなふうに見えないけど
私の言葉を遮るように、そう言った優斗くんは、
ちらりと王牙くんを見やる。
藤堂 優斗
藤堂 優斗
野々村さん、
もしかして本気で佐伯のことを……
野々村 姫
野々村 姫
ないですからっ
認めたら、言葉にしたら、
辛くなるだけだから……。

強く否定した私に、優斗くんは肩をすくめる。
藤堂 優斗
藤堂 優斗
変なことを聞いてごめんね。
だから、そんな顔をしないで

優しく微笑んで、
優斗くんは私の目尻を親指で拭う。


私、泣いてなんかないのに……。


目をパチクリさせていると、
私の心を見透かしたように優斗くんは言う。
藤堂 優斗
藤堂 優斗
泣いてる気がしたんだ
ふっと笑った優斗くんは
それだけ言い残すと、席に戻っていった。