カタカタと震えていると、
王牙くんが問答無用で
私のカバンの中に手を突っ込む。
私のスマホを探し当てた王牙くんは、
勝手に操作して連絡先を登録してしまった。
私の言葉を遮った王牙くんに、
思わず心の中で突っ込む。
──話を聞きなさいよ! この俺様魔王!
無言で王牙くんを睨みつけてみたけれど、
早くしろと訴えかけてくる目が怖かったので、
私は泣く泣く白状した。
ボソボソと答えると、
王牙くんは目を見張ったまま、
言葉を失っていた。
この反応には慣れている。
散々、この名前でからかわれてきたし。
私は漫画や童話のお姫様とは違って、
ごく普通の女子高校生だし。
笑われるのは覚悟していたので、
ふいっと顔をそらしていると、
予想外の答えが返ってきた。
きょとんとしていると、
王牙くんが私の顎をクイッと持ち上げる。
──わあっ、なに急に!?
目を瞬かせながら、
バクバクと鳴る心臓に息苦しさを
感じていると王牙くんは、ふっと笑う。
場所もわきまえずに近づいてくる
王牙くんの胸を押し返そうとしたのだが、
手首を掴まれて動きを封じられてしまう。
ズイッと顔を覗き込まれた私は、
野獣のようにギラつく王牙くんの目に圧倒される。
どうして、逆らえないの?
身体が金縛りにあったみたいに動かなくて、
抵抗できない。
不思議な強制力があった。
──って、私はなんで受け入れてんの!?
王牙くんに誘導されて、
私はうっかり頷いてしまっていた。
みんなにも見られてるし、
恥ずかしくて死にそうっ。
羞恥心のあまり泣きそうになっていると、
王牙くんの肩を誰かがグイッと引いた。
王牙くんが振り返ると、
その後ろにはクラス委員長である
藤堂 優斗くんが立っていた。
この学校では成績優秀者が入学式のときに、
クラス委員長として発表される。
優斗くんもキレイな顔立ちをしていて、
新入生代表のスピーチのときの物腰柔らかな
印象から、すでに女子の人気を集めていた。
頼りになるなあ。
つい優斗くんに見惚れていると、
王牙くんが舌打ちをした。
向けられた苛立ちにビクッと
肩を震わせていると、
優斗くんの手を振り払った王牙くんが
私の顔を両手で包み込んでくる。
不敵に笑った王牙くんが、顔を近づけてきた。
目の前が陰って、
なにをするつもりなのかと戸惑っていると……。
唇に、暖かな感触。
それは何度も角度を変えて重なって、
私の頭は真っ白になった。
ちょっと、これって……。
私、クラスのみんなの前で、
王牙くんにキスされてる!?
心の中で、私は悲鳴をあげる。
──こうして、私の高校生活は
波乱の幕開けをしたのだった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!