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第1話

1話 魔王様の降臨
4月、今日から高校生になった私──野々村ののむら ひめは、
入学式を終えて教室にやってきていた。


前の席の子に話しかけようかな、
いま、後ろの子のほうが人懐っこそう?

中学からの友人はこの高校にいないし、
友達作らないとひとりになっちゃうよ……!


教室では同じ中学だった人たちを中心に、
軽くグループができつつある。

とはいえ……仲良くなってしまえば、
お喋りな私も、根は引っ込み思案なので、
声をかける勇気が出せずにいた。

ひとりでそわそわしながら、
前の席の女の子の背中を見つめて念じる。


こっちを振り向いて! 

そうすれば、
話しかけるタイミングが掴めると思うから!


他力本願にも奇跡を待ってたとき、
どんっと隣の席の机に誰かがスクールバックを置くのがわかった。


何事かと横を向けば……。

無造作にセットされた髪に、
モデルと言われても疑わないだろう端正な
顔立ちをした赤茶色の髪の男の子がいた。
佐伯 王牙
佐伯 王牙
あっちいー
走ってきたのだろうか。
男の子は首元のネクタイを緩めると、
ワイシャツをパタパタと仰ぐ。

その仕草がどうも色っぽく見えて、
口をぽかんと開けながら男の子を見上げていると……。
佐伯 王牙
佐伯 王牙
あ?
ばっちり、目が合ってしまった。


うわっ、どうしよう。
盗み見してたのバレたっ。
いくらカッコイイからって、見すぎた……!


ダラダラと嫌な汗をかいていると、
男の子は私を見つめたまま、
考えるように顎をさする。

やがてなにかを思いついたかのように、
すっと目を細めた。
佐伯 王牙
佐伯 王牙
決めた
ニヤッと笑った男の子は、
私の机に手を置くと、覆いかぶさってくる。
野々村 姫
野々村 姫
な、なんでしょうか……
近づいてくる彼から距離をとるように、
私は背中をのけ反らせる。

けれど、そんな抵抗も虚しく……。

吐息が前髪をくすぐるほどに迫った、
彼の整った顔にドキドキしていた。

そんなとき、彼は信じられないひと言を放った。
佐伯 王牙
佐伯 王牙
お前、今日から1週間、
俺の彼女な
野々村 姫
野々村 姫
……は?
なに言ってるの、この人……!?

驚きを通り超えて、衝撃を受けていると、
女子の悲鳴があちこちから聞こえてくる。
クラスの女子A
私、高校見学のときから、
王牙おうがくんのこと狙ってたのに~
クラスの女子B
あんな地味子を彼女にするって……。
王牙くんの許容範囲、広すぎない?
王牙……くん?

今日が入学式のはずなのに、
みんながこの人の名前を知ってるだなんて……。

そんなに有名人なの?


改めて彼──王牙くんを見上げる。

王牙くんは絶望の滲んだ女子の嘆きをも
無視して、私に手を差し出した。
佐伯 王牙
佐伯 王牙
じゃ、スマホ貸して
野々村 姫
野々村 姫
な、なんでですか? 嫌ですよ
悪用されたら困るし!


警戒しつつ自分のカバンを抱きしめて、
スマホを死守する。

すると、王牙くんは口端を持ち上げて笑った。
佐伯 王牙
佐伯 王牙
……へえ。俺にイエス以外の返事する
とか、命知らず
──命!? 命とるの!?

その横暴な口ぶりと邪悪なまでの黒い笑みは、
悪魔なんて生ぬるい。

まるで、魔王そのものだった。