次の日、決勝で光ちゃんたちは3-0で優勝し
春高への切符を掴んだ。
その日も応援に行っていて、私は光ちゃんに早く「おめでとう」と伝えたくて試合終わりの彼を探していた。
春高県予選はテレビで中継もされる。
マスコミ関係者やテレビ局の人たち、
予選で負けた高校や県内外のバレーファン、
そして私たちも全校応援ということで
終わった後、観客席や1階の出入り口付近が混む。
メディア関係の人たちもたくさん来ていて
私は光ちゃんを探したが見つけられずにいた。
田中先生に"陽菜"って呼ばれる度に
彼を好きだった日々のことを思い出す。
未練は無いけど思い出が多すぎる。
少しだけ、辛い気持ちになるんだ。
そう言って彼は笑った。
寂しげな笑顔を浮かべて観客席に戻っていった。
(なんで、あんな顔するの…)
なぜあんな顔をするのか気になった。
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先生の事が気になりながらも光ちゃんを探していると、光ちゃんを見つけた。
アナウンサーさんにインタビューを受けているみたいだった。
彼は一礼をして誰かを探すように周りをキョロキョロしていた。
私が声をかけようとした時、ある人が彼に抱きついていた。
光ちゃんはとても嬉しそうな顔で志那さんと話していた。
あんな無邪気な笑顔、見るのいつぶりだろう。
私と付き合ってから、
彼は私にその笑顔を見せた事が無かったかもしれない。
あれ…?なんで、こんな…
私は観客席に戻った。
今日はうまく話せない気がしたから
怖くなって彼と帰るのもやめようと思った。
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私は涙を流していたようだ。
あの光景がショックすぎたのだろう。
志那さんが光ちゃんに抱きついたところを見たなんて、モモたちには言えない。
私はケータイを持ってお手洗いに行った。
お手洗いから出た後に声を掛けられた。
前も声を掛けられたけど
私はこの人の名前を知らなかった。
私が頷くと彼は名前を教えてくれた
それじゃと言って彼は下におりた。
(光ちゃんが取られるって誰に?
ていうか、なんで私にそんな事言ったの?)
あの岡田くんっていう子、
前に声を掛けられた時も
よく分からないことを事言っていた気がする。
私が考え事をしていると
モモが声を掛けてきた。
私はカバンを持って体育館から出た。
あそこにいると息が詰まる感じがして胸が苦しくなる。
光ちゃんのことを考えると
志那さんの事も岡田くんの事も思い出してしまう。
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今は、光ちゃんに会いたくない。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。