ヤツメと、文華かが、緊張するのは、当たり前の事だった。
イタリアンレストランの店内は、ため息が出るほどの飾り付けをされた、クリスマスツリーが、お客様を迎え、店内の何処を見てもオシャレな装飾が施していて、それはまるで、彼等を特別な空間へと誘うかの様だった。
そんな素敵な空間に包まれ、頼んだ料理を待つ間、ヤツメと文華はこの日為に用意したプレゼントを交換する。
文華は顔を赤らめ照れながら、手編みのセーターを渡し、ヤツメも文華同様に照れながら、ハートの形のネックレスを文華の首に優しく着けてあげる。
この店は、多くの人で、賑わっているのだが、ヤツメには、文華の姿以外目に入らない、彼女の一つ一つの仕草や、笑顔を、目に焼き付け、愛おしいく想い、その全てを、瞳の奥の心の部屋に、大事に、大事に記憶する。
それは文華も同じだった。
ヤツメとの時間を、大切に思い、言葉出来ない感情を、胸の奥に、ソッと置き、彼女は今を生きる。
「ヤツメさん美味しいね」「ここの料理」
この日、この店のテーブルの上には、食空間を色取る為に、花が置かれているのだが、その花越しに、二人はたわいもない、話しながら、幸せを感じ合う
「本当そうだね、文華ちゃん」
「このスープ濃厚で、凄く美味しい」
当然の事ながら、ヤツメは、文華の瞳に潜む悪しきもののけを消し去る事を、あきらめる事など無い、だが残念な事に、今もなお、その答えを見つける事が出来無いでいた。
しかしヤツメは、全ての食事終えると、文華の瞳を、真剣な眼差しで見つめ、二人の未来のために、とても大事な事を発する。
「文華ちゃん、僕は君の事が、大好きだ」
それは、あまりにも単純で
「出来るなら、君と結婚したい」
真っ直ぐで
「僕は、君といる時間を、とても大事に思う」
柔らかく
「こんな僕で良かったら」「卒業したら、僕と結婚してくれないか」
温もりが感じられた。
涙をする事を許され無い、文華は、ここの底から込み上げる感情を、必死になって抑え、柔らかな笑顔をヤツメに見せ
コックリと首を縦に振り
「ありがとう」「ヤツメさん」
驚きのせいで
「私、こんな嬉しい、クリスマスは」
自分の伝えるべき事が
「生まれて初めて」
空回りする。
しかし、心から願っていた、ヤツメからのプロポーズが、文華の心の底に眠る何かを動かす。
文華は立ちあがり、身を乗り出し、ヤツメの唇に、キスをする。
ヤツメは、文華の頬に優しくお返しのキスをする。
人目を、はばからる事無く
クリスマスという魔法が、彼等に優しくささやいた瞬間だった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!