実は、この女性の彼氏には、三つ年上の姉がいるのだが、その姉は小学校で、習った文字を、両親に一生懸命に、教えていた。
当然の事ながら、両親にとって凹凸の少ない文字を、書く事も、思い浮かべる事も意味をなさない、しかしながら、自分達が、文字を覚える事で、娘が喜ぶ姿を思い浮かべる事が、幸せだったと言う
「その行動は、弟にも同じ事をしてあげたそうだよ」「だから俺は、あえてこの文字を書いた」
「さて、もう一通」「ここからが、本番だな」
「待たせたな恋キツネよ」「我が筆に憑依せよ」「この者の冷めやまぬ恋の花を」「病みに心を奪われた、彼氏の心に温もりを与えてくれ」
「フーン」「流石だねヤツメ様」
「今わかった様だな」「ミコト」「この恋文の仕掛けが」
そうこの恋文には、盲目の者にも、読み解く事の出来る仕掛けが有る。
乾燥した草花の粒子が、文字に凹凸を与え、キンモクセイの甘い香りが、心を和ませる。
「最初の恋文を、彼氏の両親に、そして、この恋文を彼氏に」
恋文筆弁士ヤツメは、華麗に、しなやかに、そして優しく解決に導く
「ありがとう御座います」
実は、数日前ここに訪れた、五十代の男性の妻は、末期のガンにも関わらず、彼より恋文を貰った翌日より、僅かだが、食事をする事が叶う様になっていたと言う…
その事を看護師の彼女は、知っていた。
「これで、きっと救われる」
彼女は何度と無く、御辞儀をし、彼氏の両親の元に、足を運ぶ
ほのかに優しいキンモクセイの香りが、盲目の者と看護師の彼女との愛を優しく包み込む
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。