第15話

盲目の恋に愛の手紙を…
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2020/08/24 04:55
ヤツメ
ヤツメ
準備は万全だーー
約束の時間になり、依頼人の看護師の女性が、ヤツメの家を訪れる。
 「お待ちしていました」ヤツメは、そう言うと、鋭い目付きに変わり、紙をパーンと広げる、
 「この半畳程の紙に、文字を書き入れます」「ご確認を」
 ヤツメは、数枚の高級そう和紙を、彼女に手渡す。
ヤツメ
ヤツメ
この中よりお好きな物をお二つお選び下さい
二十代後半の娘
二十代後半の娘
こんな
こんなに種類があるの
素敵ですね
 この時ヤツメの瞳は、自信満ち溢れ光り輝いた
ヤツメ
ヤツメ
今から準備いたしますので、ごゆっくり選んでください
 そう言う一昼夜かけ乾燥させた野花を、すりすり鉢でゆっくりと優しく潰し、その全てをティーパックに入れ、急須に六十度のお湯を注ぐ、すると茶色く濁った液体が出来上がる。
 
ヤツメ
ヤツメ
上出来だ
その液体を見てヤツメは、コクリとうなずく
この液体を、すすりに移し、最後に乾燥させた、キンモクセイの花をすすりに入れる。

 するとヤツメの瞳は更に輝きを増す

 その液体におもむろに筆をつけ、一つ大きく息を吸い込み声高々と言い放つ「赤き情熱のキツネよ」「我が筆に憑依しては、くれぬか」「盲目の両親に絡みつく、偽りの優しさを取り除け」「そして本来の愛を注いでやれ」
 ヤツメの言葉を聞いた、赤き狐は燃える様な情熱と共に、筆に憑依する。






 ヤツメの持つ筆が、まるで踊るかの様に、筆を走らせる。







 
 
 
ヤツメ
ヤツメ
完成だ
その時まるで全てを見ていたかの様に、ミコトがスーーと姿を表す
ミコト
ミコト
ただ今、ヤツメ様
 それにしても、赤きキツネの文字は、いつ見ても素敵だね
何度見ても涙が溢れる
ヤツメ
ヤツメ
お、お前何処に行っていた
ミコト
ミコト
あらあらそう怒らないの
ミコト
ミコト
そんな事より、盲目の方には点字を書くそんな基本的な事を、忘れて大丈夫かい?
ヤツメ
ヤツメ
当然、問題無用だ
実は、この女性の彼氏には、三つ年上の姉がいるのだが、その姉は小学校で、習った文字を、両親に一生懸命に、教えていた。
 
 当然の事ながら、両親にとって凹凸の少ない文字を、書く事も、思い浮かべる事も意味をなさない、しかしながら、自分達が、文字を覚える事で、娘が喜ぶ姿を思い浮かべる事が、幸せだったと言う

 「その行動は、弟にも同じ事をしてあげたそうだよ」「だから俺は、あえてこの文字を書いた」

 「さて、もう一通」「ここからが、本番だな」

 「待たせたな恋キツネよ」「我が筆に憑依せよ」「この者の冷めやまぬ恋の花を」「病みに心を奪われた、彼氏の心に温もりを与えてくれ」


 「フーン」「流石だねヤツメ様」
 
 
 「今わかった様だな」「ミコト」「この恋文の仕掛けが」

 そうこの恋文には、盲目の者にも、読み解く事の出来る仕掛けが有る。

 乾燥した草花の粒子が、文字に凹凸を与え、キンモクセイの甘い香りが、心を和ませる。

 「最初の恋文を、彼氏の両親に、そして、この恋文を彼氏に」

 恋文筆弁士ヤツメは、華麗に、しなやかに、そして優しく解決に導く

 「ありがとう御座います」

 実は、数日前ここに訪れた、五十代の男性の妻は、末期のガンにも関わらず、彼より恋文を貰った翌日より、僅かだが、食事をする事が叶う様になっていたと言う…

 その事を看護師の彼女は、知っていた。
 「これで、きっと救われる」
 彼女は何度と無く、御辞儀をし、彼氏の両親の元に、足を運ぶ
 






 ほのかに優しいキンモクセイの香りが、盲目の者と看護師の彼女との愛を優しく包み込む

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