第12話

盲目の恋
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2020/08/14 22:52
文華は、ヤツメからの告白を受けるまで、息をする事すら、苦しいほどの、胸に支えが有ったのだが、その全てが、優しく解き放たれ、喜びと共に、涙が溢れ出す。

 しかしこの涙が、瞳に宿る、もののけの悪しき力を強め、そしてその悪しき力は、彼女の寿命を確実に縮める。

 その事に気付くのは、残念ながら、しばらく後の事だった。

 何も知らない二人は、この涙すら、お互いの心に、温かみを生む材料となる。   
 ヤツメは優しく、文華の頬に溢れ落ちる涙を、ハンカチでぬぐい、文華は差し伸ばしたその手を、握りしめる。

 この時、文華の瞳の中の、小さな恋のつぼみが膨らみ始める。
 そして二人は、翌日より、今まで書いていた、奇妙な交換日記と共に、新たな恋の交換日記を書き始める。


 ヤツメが文華に、告白して、一週間の時が、過ぎたのだが、ミコトの姿は、まだ何処にも無かった。

 「何処に行った」「ここまで、家を留守にするのは、始めてだな」「ミコトの奴、帰ったら、尻叩きの刑だな」

 そんな、下らない事を、ブツブツと呟きていた昼下がりに、思いもよら無い来客が、彼の元に訪れる。

 その者は、二十代後半位の女性なのだが、「私ね、昨日婚約を解消してくれないかと」「彼に言われてね」

 ヤツメの所には、彼女の様に、心に傷抱えて、癒して下さいと言う依頼も、時々だが有り、ヤツメは、彼等の心の傷を癒す為に、話しを親身になって聞き、その者にとって、最良の文字を書き、すぐに癒えぬ心の傷を、文字の力で包み込み、優しく癒していた。

 しかし、彼女の悩みは、その者達の悩みとは違い、深く複雑な悩みだった。

 「私と彼が出会ったのは三年前だったの」彼女は、盲目の男性と出会い、愛を育み、二人で、結婚を夢みて、両家の親に挨拶を済ませ、明日結納を行う予定だった。

 「貴方の両親が、反対したのですか」

 「いいえ、反対したのは、彼の両親の方なの」
 
 ヤツメは、驚きの表情を見せる。

彼は、恋文筆弁士の仕事を始め、数多くの仕事をこなし、彼女の様に反対する両親に向け、文字や絵を描く事は、有ったのだが、全ての者が、自分の両親への熱い恋文だった。

 「彼氏のご両親の情報が、欲しいのですが」「どんな方ですか」

 「すみません」「一度お会いしただけで、あまり詳しく事は」

 「彼氏の両親の情報が、少なすぎる」「難しい、依頼だな」ヤツメは、首を傾げ悩んでいると、更に彼女は、驚く事を口にする。


 
二十代後半の娘
二十代後半の娘
彼のご両親は、二人共、盲目なの…
なんとか   なんとかなりませんか、お願いします

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