ヤツメと文華は、お互いの事を考えて思い、交換日記を書き、そして手渡す。
もう何度この日記を交換しただろう、たわいない日常の出来事を、ただひたすら書き進めるだけ、しかし彼等にとって常に新鮮で、飽きる事無く、毎日、毎日このノートに思いを重ねる。
そして、二人の愛を吹き込んだその文字は、途切れる事無く、季節をついやし、今文華は、高校生活最後の夏休みを迎え様とする。
「暑いね~健一君」
梅雨明け、青空が続き、蝉の鳴き声が、辺りに突き刺す中、一学期の終業式が終わり、帰り道、健一と文華は、この夏何をするか、話していた。
「文華さんは、この夏どこか行くのですか、ヤツメさんと、海とか、山とか、行かないのですか?」
「うん、今の所どこにも行く予定無いな~」「健一君は、どこか行く予定有るの?」
「はい僕は、歴里さんと、近くの神社仏閣巡りに行って来ますよ」「あとね、登山の計画中ですよ」
「ヘェ~山派なんだ」「いいな、私は海に行って見たいな」
「文華さんも、ヤツメさんに頼んでみたら、どうです?」
健一と何気に話していた事がキッカケで、文華はヤツメに、海に行きたいと、せがみ、拝み倒し、約束をこぎ着ける。
文華は、満面の笑みを浮かべ
「本当、やった」
「じゃあ次の休みに、海に行こうね」「決まりだよ」「絶対だからね」
「約束だよ」
文華はヤツメに、甘い缶コーヒーと、交換日記をいつもの様に渡し、やや強引に、五日後に海行く約束をし
足早に家に帰り、よほどヤツメと海に行くのが、嬉しいのか、自分の部屋で、ご機嫌に鼻歌を歌いながら、水着を試着し始める。
「あ~早くこれ着て、ヤツメさんと海で、泳ぎたいな~」
文華は、五日後の約束が、よほど嬉しいのか、何度も全身を映すスタンドミラーの前で、ティシャツを羽織ったり、いろんなポーズを取ったり、ついにはリボン付きの可愛い麦わら帽子をかぶり、ポーズを取り、五日後を想像し、ニヤけ始める。
「ふふふ」
一方ヤツメの家では、ヤツメとミコトが、文華の瞳の中の、悪しき力を持つ、もののけの話しをしていた。
「ヤツメ様、文華ちゃんの瞳見ましたか」「気のせいか、影が大きくなっていたと思いましたが」
「確かに、デカくなっていた」
これは、最近文華が、涙した#証__あかし__#なのだが、ヤツメには、心辺りはなかった。
「実は、近頃文華ちゃんが書く文字には、筆圧が、低くなっている」「文華ちゃんは、俺に何かを隠している」
「俺には言えない、何かをな」
五日後、 暑い日差しが降り注ぐ中、ヤツメは近くのバス停で、汗をぬぐいながら、文華を待つ
「文華ちゃん、遅いな」「何か有ったかな?」「約束したのに、、、」
「まさか!」
ヤツメは、海に行き、文華に何が有ったのか、なにげなく聞き出すつもりだった。
彼女の命を守る為に
しかし、文華は約束の時間になってもその姿を見せる事は、なかった。
実は彼女は、待ち合わせ場所に来る途中、吐血し倒れ込み、救急車で病院に運ばれていた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。