第27話

小さな可愛い訪問者
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2020/10/24 11:39
文華は、ヤツメから突然頬にキスをされたその瞬間、こころに、柔らかな風が吹き、一つの決意を引き寄せる。

 文華は、恥ずかしくなり、シーツを頭からかぶり、何やら呟き始める。

 「私、やっぱりヤツメさんが好き」「もう、別れるなんて考え無い」

 「だって、こんなに好きなんだもん」

 心のこもった、小さな呟きが、ヤツメの耳に届く

 「俺も好きだよ」「文華ちゃん」

 ヤツメも又、文華の耳元で、優しく呟く

 二人の恋のつぼみは、ゆっくりだが確実に咲き誇る。

 ヤツメと文華は、両親が着替えを持って来るまでの、わずかな間、優しく甘い時間を過ごす。

 
 文華の両親が、病室の扉を開け、文華の手に、両手を添えていたヤツメは、シーツごしに、文華のオデコのあたりを、人差し指で、ツンツンと軽くつき、「じゃあね」「また明日くるね」「少量で良かったが、吐血して倒れたんだから」「無理するなよ」「わかった?」
 
 ヤツメが、別れをつげると、文華は、どこか寂しそうにうなずき、小さな声で、返事する。
 「ん、わかったよ」「ありがとうねヤツメさん」


 ヤツメは、病院を出て、家にたどり着つと、大きく重い引き戸の前に、小さな可愛い訪問客が、今にも泣きそうな顔で立っていた。

 そのすぐ横で、ミコトはこの女の子が泣か無い様に、必死になって、変顔をしていた。
 
 それを見たヤツメは、必死で笑いをこらえながら、ミコトに近づく
 「おい、ミコト何無駄な抵抗してる?」

 「あっ、ヤツメ様」「だって~」「泣きそうなんだもん」「見えて無くても、ほっとけないよ」

 
 「そうだな、悪かったよ」「小さな子供には、ミコトの事が、何か感じるかかもな」「で、ミコトあの子は、いつからここにいる?」

 
 「かれこれ一時間ほどでしょか?」


 「ただ事じゃ無いな」ヤツメはミコトにそう言うと、女の子の瞳を見て、穏やかに、優しく話しかける。

 「お名前は?」「お歳は?」

 九歳の女の子の瞳の中には、恋のつぼみは無く、その代わりに、枯れた一輪の花が、この子の瞳の中をまるで、支配するかの様に、咲いていた。

 その依頼の内容は、特別で、困難な物だった。

 九歳の女の子は、一年前に道に飛び出す自分をかばった母親は、交通事故で、亡くなったと言う。

 枯れた花の正体は、この母親への強い想いが、生み出した物だった。
 
 この女の子の願いは、ただ一つ

 「お母さんに、あいたいの」



 「私を、お母さんのいる、天国に連れてって、くれませんか?」
 


 この言葉を聞いた、ヤツメと、ミコトは、驚きのあまりに、言葉を失う。

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