志麻side
目を開けると、病院のベットの上だった。
俺の手からすり抜けたセンラの手。
他の感触が未だに残っている。
うらたが病室に入ってきた。
そう言って頭を下げた。
そうだ。この人がきちんとやってくれればセンラは死ななかったかもしれない。なのに…なのに…!
うらたは無表情のまま病室のドアに手をかけた。
こちらに背を向けたままつぶやくうらた。
うらたが振り返る。その目には涙が浮かんでいた。
深々と頭を下げるうらた。
そして病室を出ていった。
『あなたのために闘ったセンラの想いを…無駄にしないでください。』
『俺の分まで…頑張って欲しいんよ。』
二人で…頑張るって言ったじゃん。
大きい店構えて、大人気のスイーツバンバン出して、お客さんを笑顔にするって…描いていた俺らの物語。
まるでメレンゲのように脆いこの物語は…最初からなかったかのように弾け飛んだ。
忘れたくて、忘れたくて、仕方がない。
こんな辛く、悲しいことなんて、記憶から消し去りたい。
でも…センラを忘れたくない。
センラがいない世界はスローモーションのようで追いつけない。
誰もいない病室で、俺は再びすすり泣いた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。