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第4話

人懐こい大型犬。玲紗side
玲紗たまさ!」


そうこうして回想に耽っていると、
芹先輩せりせんぱいがどこか嬉しそうな声で私を呼んだ。


「はい」


その声に振り返ると、芹先輩せりせんぱいはニコニコと笑い、ピョコピョコと体を左右に揺らしていた。


「フフフ♪」


高校三年生という事実に加え、芹先輩せりせんぱいは留年生。


年齢は私のひとつ上だというのに、
この天真爛漫さはなんなんだろう。


と、そんなことを思うけど。


私にはなぜかなついてくれてるし(◀言い方)、
愛嬌と思え可愛らしいもので、
なんというか、背もあるから大型犬みたいなのだ。


犬種は‥‥‥‥そうだな、
穏やかな性格のゴールデンレトリーバーとか。


「全部終わったよ!」


私が少々ボーッとしている間にも、
芹先輩せりせんぱいは問題集をずいっとつき出してきた。


「終わったんですか?お疲れ様でした」


問題集を受け取ってパラパラと捲り、
全ページの解答欄に記述があるのを確認する。


どれもこれも美しく整った字で埋められたいたのは
言うまでもない。


いくら全ページの解答欄が
きちんと埋められているからといって、
それが正解とは限らないのが、悲しいところ。


それが単なる間違いなら、
まぁ問題がないわけではないけれど。


芹先輩せりせんぱいの場合、
珍解答を書くことがあるから、油断ならない。


採点をしていて、美しく整った字で
なぜ珍解答なさるんですかと
本気で突っ込みたくなったことは心に秘めておく。


と、やや疲れ気味に問題集から顔をあげると、
不意に芹先輩と目があった。


またもやにこにこしながら、
恐ろしく整った美しい顔を私の方へ近づける。


いつもよりどこかウキウキした瞳で見つめられて、
少し、硬直した。


うん。美人すぎることにも硬直したけども。


「えっと‥‥‥‥‥‥‥」


やっとのことで口を開いても、
その先を言うことが少しかわいそうに思えた。


「ん?」


やっぱり芹先輩せりせんぱいはにっこにこ。


「あの、すみません。約束とかしましたっけ?」


そんな期待に満ちた顔は、言わずもがな、
何かを期待されているのだろうけれど。


ジュースの奢り。


お菓子を買う。


次のテキストを手伝うなどなど。


正直言うと、そういうような約束や条件を出した覚えが一切ない。


申し訳なさでいっぱいになっていると、
芹先輩はキョトンとする。


それから芹先輩は、腕を伸ばし、
私を通り過ぎて後方左斜め上をすっと指差す。


その間、終始無言。


つられて振り返ると目に入るのは
黒板の右側に位置する丸い時計。


長針は11をさしていて、短針は4と5の間。


つまり、4時55分。


「5時前、ですね?」


ポツリと呟くと、先輩の頷く気配がする。


「うん。玲紗たまさ忘れちゃったの?
5時までにこの問題集解き終われたら
ご褒美に買い物付き合ってくれるって」


「そう、でしたっけ?」


いまいち、思い出せない。


「そうだよ。何で俺が玲紗たまさに嘘なんかつくの?」


「ですよね」


先輩が私に嘘をついたとして、
先輩が特をすることなんかないはずだ。


それに、自分の確証もないので違うとも何とも言えない。


ていうか、断言されると、
そう言った気がしないでもない。


そもそも、
先輩はそういうような嘘をつくタイプでもない。


「じゃ、先輩は5時までに問題集を解き終えたので
ご褒美として買い物に付き合わせていただきます」


さんざん心の中で理由付けをした果て。


にっこり笑いながらようやくそう告げると、
先輩もこくりと頷いてシャーペンや消しゴム、
その他筆記用具を片付け出す。


一方の私は正面に向き直り、
読みかけの本をかばんにしまう。


「じゃあ行こうか、玲紗たまさ


先輩はテキパキと荷物を片付けてしまうと、
席を立ち、私に手をさしのべた。


「えっと‥‥‥‥‥」


芹先輩はときどき、いや、
かなりの頻度でこういうエスコートを
さらっとしてくる。


それが彼女相手ならまだしも、
ただ勉強を教わる相手にするのは、
いったいどうなんだろうか。


なんて真面目に考えても、
結局はその美しいお顔には敵わないわけで。


諦めも肝心という言葉を身に染みて理解したのは、
‥‥‥‥‥‥いつだったろうか。


「‥‥‥‥‥‥はい」


私は少し戸惑いながらも、
結局はその大きな手をとり、
美しく微笑む先輩の隣を歩いて教室を出た。

その道中、部活に勤しむ女子生徒達からキャーキャー言われていたのは言うまでもない。


それに応えるようにして笑顔で手を振り返したことも。


よし、決めた。


決めたぞ。


芹先輩せりせんぱいは人懐こいゴールデンレトリーバーだと思うことにしよう。


いや、うん。失礼だけどもね。


心臓が‥‥‥‥持たないから‥‥‥‥‥。