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第1話

回想
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2019/02/17 02:48
2年前の夏。私が中1、兄が中2の頃の事だった。

…父と母が、死んだ。交通事故だった。

優しい母と、少し厳しい父。母親譲りの兄と、父親譲りの私。仲の良い家族だった。喧嘩も何度かしたが、私たち2人は両親が大好きだった。

そんな両親が、ある日突然この世を去った。

私たちはショックだった。そのせいで、学校に行かなくなった。先生も、何も言わなかった。

しばらくして私たちは、父方の祖父母に引き取られる事になった。

祖父母は、父を溺愛していた。

兄は、大切にされていた。

しかし祖父母は、日に日に父に似てくる私を見ていつもこう言った。
祖父母
あんたを見てると息子を思い出す。息子じゃなくてあんたが死ねばよかったのに。
祖父母は、私を忌み嫌っていた。

毎日毎日暴言を浴びせられる。暴力を振るわれる。

私は、父親似のこの顔が嫌いだった。

…ある日、私と兄は孤児院に預けられる事になった。

そこは、精神科と併設された孤児院だったが、それ以外は変わった所はなかった。

兄は、そこでも楽しく暮らしていた。

…しかし、私は違った。元々精神面が弱かった上、祖父母から暴言を浴びせられ、暴力を振るわれる日々。私は、塞ぎ込みがちになっていた。毎日、精神科に通っていた。

そんなの私を、いつも気にかけてくれていたのは精神科の医師だった。

医師は、私の親代わりだった。医師といるのは楽しくて、医師と話している時は気分が晴れた。私は、医師を信頼していた。

孤児院に来て数ヶ月経ったある日、兄の里親が見つかった。兄“だけ”が引き取られる事になった。

兄は、里親に、私を連れていって欲しいと頼んだそうだ。里親も、それを承諾していた。

しかし、医師の一言で結果が変わった。
医師
この子は、精神面に障害があるんです。
里親は察したのだろう。
里親
上の子だけ、連れて帰ります。
そう言って、医師と部屋を出て行った。

兄は、すぐに孤児院を出る準備を始めた。そんな兄を、私は黙って見つめる事しか出来なかった。

出て行く直前、兄は私を抱き寄せてこう言った。
ごめん、ごめんな。俺が不甲斐ないせいで…
兄の涙が、私の肩を濡らしていく。
あなた

いいの…

喉の奥から絞り出した私の声は、震えていた。そこで初めて、自分が泣いている事に気付いた。
…行くね。
あなた

…うん。

それが、私と兄の最後の会話だった。

兄がいなくなってから、私は巨大な虚しさに襲われた。

信頼していた医師に裏切られ、たった一人の家族と引き離された。

いつしか私は、人と関わりを持たなくなっていた。

私は、精神科に行くのをやめた。人と会話をするのもやめた。笑う事もやめた。

心を閉ざすのは、簡単だった。

…そんな私が、久しぶりに会話した男の人。
??
君の名前を、教えてほしいんだ。
これは、私と彼…いや、“彼ら”とのお話。

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