第6話

山崎有紀の動揺
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2020/12/20 11:10
山崎有紀は迷っていた。
迷い、よりも憂い、の方が正しいかもしれない。
ただ、何事にも集中できず、何もない、白い平面の上に立っている感覚を覚えた。
それは勿論心地よいものでは無く、深い泥沼に溺れるような、只管ひたすらに焦燥を植え付けていくもので。
耐えきれなくなるのは許さないとばかりに告げる何かに背を向けたくなるような感情を溢している。










要は、予想外の事態が起きた。
それが、山崎有紀にとっては裏切りにも嫌悪にもとれてしまうというだけで。
ただ、有紀は少しのことには動じない精神力を持っていた。
数学オリンピック出場、並びに銅メダルを首へと掛けるその少女は、大概のことでは冷静を貫いている。
ほんの少しの偶然の繋がり。果たしてそれを偶然と捉えるかどうかは個人の見解に委ねるが、有紀にとっては頭を鈍器で殴られたような衝撃を覚えた。






































『転校生、海吉晴夏は山崎有紀の元幼馴染み』













有紀は聞いてしまったのだ。
海吉晴夏が、クラスメートと話している事を。
海吉晴夏の将来の夢についてを。
そして、その夢の切っ掛けとなった小学校の頃の話を。








私と海吉晴夏は、小学校が同じだったことを。


















真っ先に頭に浮かんだのは、ただ一言。
『何故?』


___何故、私が久しぶりと笑ったときに他人のふりをした?
___何故、それでもまた友達になった?
___何故、積極的に私に話しかけた?


何故だ。別に小学校の頃について話したくなければそう言えば良い。
無闇に私も散策するほど馬鹿ではない。
もう一度やり直したかったのか?
でも、それほどに消したい過去は無い筈だ。
だって、だって、だって。








あの日、晴夏と私は約束したんだから。




















この思い出は、一生私達の宝物だ、と。
どんなに嫌なことがあっても、消え去りたいと思っても、それら全てが私と晴夏の軌跡になるからと。
それは、私達の間で変わることは無い筈だ。




だから、晴夏には私には言えない何か事情があるんだと。


きっといつか、話してくれるだろうと。




そう思うのが友達の役目だというのに。





私は晴夏の口が開くのを待つだけで、それだけでいいのに。

























____それでも、この心を押し潰す空白が消えないのは何故だ。

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