「………」
目を覚ますと、ベッドに居た。
この部屋でずっと過ごしてきたはずなのに、どこか見慣れない…そんな気になる。
部屋に漂う甘い香り、ベッド横にあるチェストにはアロマが焚いてある。
淡く黄色の光が白い陶器?のような器の中で揺らめいて、白い煙が天井へ立ち上ってはゆらり、と消えていく。その様を暫く眺めていた。
「…! 亜美、おはよ」
「え…。あ、うん。おはよ…」
「どうか、したの?」
「……ううん。別に…」
「………」
部屋に入ってきた女の子。
太股より上の短いピンクと白のボーダー柄のホットパンツ、胸元だけ濃い白布で胸から下はシースルーで透けている。その下に覗く肌は真っ白で、キュッとしたクビレが色っぽい…。
「…な-に? さっきから私の事見てる」
「えっ。ごめん、そんなつもりじゃ…」
「ふふ。い-よ。…亜美ならずっと見てていい。…大好き亜美」
「…ん…」
起きがけの私の傍に来ると首に手を回して、そのまま彼女に口付けされる。
柔らかくて甘い、この唇の柔らかさと優しさと甘さと熱…私は知っている。私の中に確かに残っている甘くて切ない記憶…。
暫くしてから彼女の甘い口付けが終わる。
「亜美……大丈夫?」
「うん。…大丈夫、だよ」
「……うそ」
「え……」
「目見て言ってよ」
「……えっ、と…」
真っ直ぐ彼女の目を見る。黒い瞳、長い睫毛、通った鼻筋。ほんのり赤みを帯びた白くて柔らかそうな頬と薄桃の小さな唇、下唇を少し噛んで目尻に溜まる…涙…。
「…ごめん…」
私は一言そう口にする。
ちらり、と彼女を見ると白い頬に濡れた線が作られてその後を追うように幾つも幾つも…。
一つ瞬きをした彼女は手の甲で涙の跡を拭う。何度も何度も拭く仕草を取る。
── だけど……。
とうとう俯いて肩を震わせて声を上げて泣き出した。私の肩に頭を寄せて……。
細くシルクのような髪からはふわり、シャンプーの香りがする。手を動かして彼女を撫でる。
「……亜美…好きだよ…ッ」
「…うん。ありがとう…」
「…ッそうじゃなくて…なまえ、ッ…」
嗚咽が混じり、絞り出すように彼女は呟く。
彼女が望んでいること。
私を大好きだと言う言葉、私を見る愛に満ちた瞳、優しく甘いキス、悲しげに涙を零す彼女。
これらから想像出来るのは……。
私達は
【特別な関係】だと言うこと。
だけど、私は……彼女の事を……
知らない……。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。