俺も姉も、個性が出るまでは幸せだった。
『ま、待って!お姉ちゃん!』
「もぉ!あなた君は、男の子のくせにあしおそーい!」
と、プンプン怒っている姉。
『そこで、男なんて関係ないだろ!』
「そんなんだから、いつもかけっこで負けるのよ!」
あっかんべーを俺に向かってしてくる姉。
『いいもん!俺はお姉ちゃんより顔良いから!』
そんな会話を聞き笑う両親。
ある日…
この幸せが全て崩れ落ちた。
『お、お母さん。お父さん。僕の影が動くんだ…』
両親は、驚いた顔をした。
そう、俺の個性が分かった日。
しかし、次の瞬間
俺を見て不敵に微笑んでいた。
『え…?』
その目は…
捕食者の目をしていた。
そして、この日から腐っていった。
「お母さんやめて!!」
泣き叫ぶ姉。
「大丈夫、後で壊れても治してあげるから。」
無表情のまま鞭で姉を叩く母。
「刺激を与えたら個性が出ると聞いたからなぁ」
難癖つけて姉を自分のおもちゃにする父。
そして、俺は…
助けを求め泣き叫ぶ姉を
「た…す、けて…!あなた…君…」
『お、…お姉ちゃん…?』
ただ呆然と姉と両親を交互に見ていた。
あの時の俺は
何もかもが、壊れるのが怖かったんだ。
徐々に壊れていく姉を
傍で見ながら
俺は悪くないと…
そんな、腐った考えしか俺にはなかった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!