第21話

‥絶対王者との繋がり‥
9,438
2020/08/23 14:15
ピッ……ピーーーーーッ、
あなた

……。

何も、言葉が出なかった。



決勝戦、北川第一対白鳥沢。





北川第一は1セットも取ることができないまま、怪童"牛島若利"に惨敗。




私は初めて、兄の"負け"を体感した。




そして、同時に……絶対にお兄ちゃんにも、徹くんにも、誰にも言えない…………。







全てを捻り潰す若くんの強さに、心を惹かれた。














岩泉 一
岩泉 一
ミーティングしたら帰るわ。
あなたはどうする?
あなた

あ、荷物学校にあるし……私も後で学校戻るね。

汗だくのお兄ちゃんは、悔しさを表にこそ出さないもののその瞳からは確かにやりきれない思いがこもっていて。



表彰式が終わってバスに乗り込んだ皆を見送ってから、一度館内へ戻った。











お手洗いから出て、迎えを呼ぼうと携帯を取り出した時。
牛島 若利
牛島 若利
______岩泉あなた。
あなた

!!



角を曲がってきた若くんとバッタリ遭遇して、立ち止まった。



勿論汗はかいているようだけど……あまり疲れてなさそう。





やっぱりこの人……凄いんだ。



牛島 若利
牛島 若利
……あまり話したくはないか。


呆然としていた私の顔を見てそのまま立ち去ろうとする若くん。


あなた

、待って!!



気がついたら、裾を掴んで止めていた。


立ち止まってくれた若くんは振り向いて、高い位置から私を見下ろす。


牛島 若利
牛島 若利
どうした。
あなた

あ……、



呼び止めたはいいけど…………何を話すつもりだったんだろう。私。



あああああ馬鹿……。


あなた

……ごめんなさい。引き止めて。

牛島 若利
牛島 若利
?構わない。
俺はお前と話すために来たからな。
あなた

え??

牛島 若利
牛島 若利


……今、私と話しに来たって……言った?



なんで??


牛島 若利
牛島 若利
しかし、よく考えたら話しかけるべき場面ではなかった。いつも後から気がつくんだ。すまない。
あなた

えっ、いやいやいや!
むしろ私も話したかったというか会いたかったというか見たかったというか……!



何言っちゃってんの私!!?

あなた

ごめんなさい、なんかその、若くんのバレー見てたら凄い惹きつけられて……。

牛島 若利
牛島 若利
……そうか。


ほらもう……変に思われたかな?
あなた

ごめんなさい……。

牛島 若利
牛島 若利
?なぜ謝る。悪いことはしていないだろう。
あなた

いや、そうですけど……。
自分でもなんなのかよく分からなくて。

牛島 若利
牛島 若利
……?
あなた

…………、

??
??
牛島さん!

沈黙が続いた所に若くんのチームメイトがやってきて、会話が中断された。
あなた

……あ、じゃあ。

牛島 若利
牛島 若利
ああ。

……このままお別れしたら、もう当分会えないのかな?



もしかしたら、もうずっと……。

あなた

〜っあの!!

牛島 若利
牛島 若利
……なんだ?



なぜか、私の本能が言っていた。



"この人とまた、会わなければならない"と。


あなた

私……若くんのバレーを、もっと知りたいです。

牛島 若利
牛島 若利
…………俺のバレー?


小さく傾げた首筋には、もう汗が引いていて。

 
私は頷いて、口を開く。


あなた

今日、試合観て……。
お兄ちゃん達が負けたのは悔しかったけど、それ以上に……若くんのバレーが凄くて、強くて、感動したの……。なんで若くんが強いのか、どうしてお兄ちゃん達が手も足も出なかったのか……"知りたい"。




悔しい気持ちと、それも仕方が無いと思わせるほどの圧倒的な力への憧れと。



そして、それがどうして私の心をこんなに突き動かすのか、どうして人見知りの私がこうして若くんと話せているのか。




"知りたい"



牛島 若利
牛島 若利
…………


ゆっくり私と向き合った若くんは、片手でチームメイトさんに返事をしてこちらに歩み寄った。


牛島 若利
牛島 若利
俺もお前を"知りたい"と思っている。
あなた

……え?




思いもよらない言葉の連続。


困惑した私の、片手に持っている携帯を指さした若くんに渡すと、操作を始めた。

牛島 若利
牛島 若利
今携帯は持っていないから、電話番号を登録しておいた。LINEの方が都合がいいなら、番号で追加してくれ。
あなた

…………

牛島 若利
牛島 若利
……?
すまない。連絡先を交換、という流れではなかったのか?
あなた

えっ、いや!!びっくりして……。



まさかこんなにすんなり受け入れてもらえるとは思ってなかった。


あなた

……じゃあ、LINE追加しておきます。

牛島 若利
牛島 若利
ああ。
それから、お前は敬語でなくていい。
あなた

……え?

牛島 若利
牛島 若利
その方が関わりやすい。
嫌ならいいんだが……。
あなた

わ、分かった!!!

牛島 若利
牛島 若利
……あぁ。
あなた



微かに口角を上げると、踵を返した。


そして、少し振り向いてまた、相変わらずの真顔で言う。


牛島 若利
牛島 若利
いつでも連絡して構わない。
また会おう。
あなた

……うんっ。ありがとう!




こうして、私はお兄ちゃん達に内緒で若くんとの繋がりを手に入れた。

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