今日は体育祭。
いつもより早起きして、顔を洗って身支度をしてから、エプロンを装着した。
体育祭は休日にあるため、給食は出ない。
そういう、"お弁当が必要な日"には、私は欠かさずこうして早起きして料理をする。
今までと違うのは、私も同じお弁当を食べる、ということ。
袖を捲って、包丁を手にした。
気合い入れるぞ!
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お弁当は準備も終え、包んでから食卓の端っこに並んでいる。
朝ごはんの時間にしっかりと起きてきたお兄ちゃんは、重たそうな目を擦りながら席に着いた。
何も言わないお兄ちゃんに、お母さんが声をかけようとした時。
お兄ちゃんはスッとその場を立ち、手を洗っている私のすぐ側までやって来た。
名を呼ばれて、まだ石鹸のついた手をそのままにお兄ちゃんを見上げる。
あれ、こんなに背、大きかったっけ。
フワッ
そう言って、私の頭をよしよしと撫でた。
2人でニシシと笑って、お母さんに声をかけられたので朝ごはんを食べることにした。
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ピンポーーーーン
朝ご飯を食べている途中に鳴ったインターホン。
朝のこの時間に訪ねてくると言ったら、1人しかいない。
いつもより少し早いけど。
お兄ちゃんと一緒にリビングに入って来たのは、体操服に身を包まれた徹くん。
満面の笑みで私に駆け寄って来て、ついでにお母さんにも挨拶している。
とりあえず急いでお味噌汁を啜っていると、徹くんは「それはねぇ……」と視線をスライドさせる。
そして、一点にピタッと止めてから口角をぐっと上げた。
お弁当をキラキラとした目で見るものだから、「1番左が徹くんのだよ。」と言ってあげると嬉しそうに持ち上げる。
お兄ちゃんに追いやられた徹くんは、ちょこんとソファーに腰掛ける。
それでもお弁当は抱えて離さなくて、キラキラした目でいろんな角度からそれを眺めている。
そんなの、頑張って作った側からしたら何よりの喜びだ。
お兄ちゃんとの会話を思い出してこちらも笑みが溢れ、「そーだね!」と満面の笑みで返した。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!