恐る恐るお家に入ってから、タオルを持ってくると先に上がった国見くんを待った。
……なんでこんな状況に。
タオルを受け取って首を振ると、国見くんは小さくため息をついた。
背中越しに笑われてるのを放って、言われるままお風呂を借りることにした。
お風呂の中と外で会話をしながら、シャンプーとリンスを両手に見比べながら答える。
国見くん……意外とからかいがいがあるな。
お風呂を出るとすぐに脇にスウェットが置いてあって、慎重に着た。
……長い。
裾が太ももの真ん中くらいまであって、こういうデザインなのかな?と納得した。
リビングを探し当てて、水を飲んでいる国見くんに声をかけると咽せた。
ソファーに腰掛けて、用意してくれていたグラスに注がれている水を口に含んだ。
なんか国見くんのお家って落ち着くなぁ……。
綺麗に片付けてあるのを見ながら、ドライヤーで髪を乾かした。
国見𝓈𝒾𝒹𝑒.°
……とっくに乾いてんのに、なんで取り出してないんだよ……。
お風呂から出てもあいつが洗濯物を取りに来た気配がないし、声をかけたけど返事がない。
仕方なく取り入れて、リビングに入った。
……。
なんで人の家で寝れるんだ?
スースー寝息を立てて、ソファーに横たわっている。
声をかけたけど全然起きないし、服を畳んで置いておいてから俺も髪を乾かした。
あなた 𝓈𝒾𝒹𝑒.°
あれ……?
私、寝てた……!?
目を開けると見慣れない風景。
冴えない頭で思考を巡らして、やっとのことで国見くんのお家に来ていることを思い出した。
勢いよく跳ね起きて辺りを見渡した。
アンティークな小窓から見える空は薄暗く、ある程度の時間が経っているんだと分かった。
まずい……。
こんな時間にまだ家に帰ってなかったら、お兄ちゃん絶対めっちゃ心配してるよ……。
案の定、携帯には大量の着信が入っていて近くの公園まで迎えに来てくれた。
とりあえず「ありがとう」とお礼を言ってから、お別れした。
国見くんって案外優しい……?
それともやっぱり少し意地悪……?
うん、よく分かんないや。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。