ギャラリーに上がると、先に来ていた影山くんたちに不思議そうな顔をされた。
笑うと、「別にいいけど」と返されてお兄ちゃんがいるところを教えてくれた。
試合をちゃんと見に来るのは初めてだから妙に緊張する。
お兄ちゃんと徹くんは、チームメイトと一緒にアップをとっている。
1試合目は見たことのない中学との試合のようで、興味深々に見ていた影山くんにどんなチームなのか聞いてみた。
影山くんは私がそう答えると、細かいルールや主審のサインの見方を教えてくれた。
目をキラキラさせて鼻を鳴らす影山くんは、とても楽しそうで。
私がそう言って笑うと、少し照れ臭そうに頬を赤らめて。
と、試合観戦に集中した。
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今日の試合は全部終わって、勝ち残った北川第一皆は一旦ギャラリーに上がって来た。
手を思いっきり広げて試合がいかに感動したか伝えようと頑張るとお兄ちゃん含め、選手の皆は頰を緩めた。
何故か汗臭くない徹くんに抱きつかれながら、それを引き剥がすお兄ちゃんを見て首を傾げた。
皆は相変わらずよく笑っているけど……。
私の頭を撫でながら柄になく優しく微笑んだ。
皆を見送って、お母さんに連絡しようと携帯を取り出した。
ドゴォォォォッ!!‼︎
異彩を放つ大きな音が鳴り響いて、私は思わず手すりに体重を預けてコートを見た。
丁度あと一点で勝つところようで、目を凝らしてどこの学校か見る。
スコア板には"白鳥沢"と書かれていて、既視感を覚えて頭を回した。
子猫を見つけた時にいた男の人だ。
大きな歓声と拍手、掛け声を一心に受けてユニフォームで汗を拭っている。
さっきの音……初めてあんなの聞いた。
相手チームのフェイントを綺麗にレシーブすると、すぐに助走に入って高く高く跳んだ。
ドゴォォォッ!!!
ピッ、ピーーーーーーー‼︎‼︎
北一って……ウチの事だよね?
え、そんな凄かったの……?
それに今年もって……。
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お母さんに連絡を取ってから、駐車場で試合を思い返していた。
お兄ちゃんかっこよかったな……徹くんとのコンビ滅茶苦茶キレキレだった。
明日もまた見れるのかぁ……。
白鳥沢って所のエースの人も凄かったな。
あんな凄い人と話してたんだ私……。
寄っかかっていた柵から背を離して横を見ると、丁度その人が立っていた。
本当は覚えるつもりもなかったけど、この人のプレーに見惚れてしまったので覚えておきたいと思った。
凄い偶然……。
確かお兄ちゃん達が離してたのって、「ウシワカ」って学校(もしくは人)だったよね。
似てるな……名前。
猫、好きなのかな……?
辺りを2人で見渡したけど見つからなかったので、社交辞令的に笑って見せた。
口数少ない人だなぁ。
続けて話そうとすると微妙に眉間にシワを寄せたので尋ねると、少し驚いた様子だった。
下の名前に言い直そうとしたけど、あろうことか名前が出てこない。
今聞いたばっかりなのに……!
目を見開いて復唱されたので、思わず謝った。
うわ……興味無さそう。
心なしか口角が上がったように見えて、バレーの事は大好きみたいだと分かった。
サァ……と、風が吹いて。
私の横髪をさらっていく。
目元に髪がまとわりつくので耳にかけようとすると、私の手より先に若くんの指がまた伸びて来て。
そう呟いて、私の髪を耳にかけた。
私は知らなかった。
若くんが、正真正銘「ウシワカ」であり、お兄ちゃんと……徹くんの因縁の相手だったこと。
そしてこの出会いが……私のバレーへの思いを強く変えたこと。
この時はまだ、思ってもみなかった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。