第22話

‥あぶれ者‥
8,801
2020/12/17 12:21
及川 徹
及川 徹
あなた!!体育祭何出るの〜?
あなた

体育祭??



昼休み、廊下が騒がしくて覗いてみると案の定徹くんとお兄ちゃんが遊びに来ていて、窓から顔を出してお話しする。



岩泉 一
岩泉 一
まだ決めてねぇのか?


後ろの黒板に貼ってある時間割を見たお兄ちゃんが、「まだみてぇだな」と呟いた。



及川 徹
及川 徹
あなた!!
絶対絶対、北一スペシャル選んで!!
あなた

??なに、それ。北一スペシャル??



なんだかラーメンのトッピングのような響きの名前に首を傾げると、フンッと鼻を鳴らした徹くん。


及川 徹
及川 徹
まぁ、障害物競走みたいなもんだよ!
学年入り混じって協力してするんだ!
縦割りだから同じブロックだし、一緒にやりたいじゃん?
あなた

ええ〜……徹くんといると目立つんだよなぁ。

及川 徹
及川 徹
ちなみに岩ちゃんも出るよ!
あなた

出る!!

及川 徹
及川 徹
へこんでいい!?


お兄ちゃんは今年で卒業しちゃうし……楽しい思い出作りたいからなぁ。


それに、なんだかとっても楽しそう。


即答した私を見て、お兄ちゃんは優しく笑って頭を撫でてくれた。

岩泉 一
岩泉 一
俺も楽しみにしてる。
あなた

うんっ!私絶対それ選ぶね!

及川 徹
及川 徹
うわああぁん、あなた〜!!
俺はおまけなの??
あなた

??おまけ???

岩泉 一
岩泉 一
ほら及川、教室戻るぞ。
及川 徹
及川 徹
なんで岩ちゃんばっかり!!
あなた

よく分かんないけど……私、徹くんともいっぱいいっぱい思い出作りたいよ!

及川 徹
及川 徹
……〜っ、、!あなたっ、好き!!!
あなた

わぁっ!?



お兄ちゃんに引っ張られて帰りかけていた徹くんがビュンッと戻ってきて、窓の向こうから私の上半身を抱き寄せた。


瞬間、教室内も外もザワっと騒がしくなる。



徹くんが来ていたから様子を伺っていたのであろう女の子達が、ボソボソと何やら囁いている。


岩泉 一
岩泉 一
おら、帰るぞ!
じゃああなた、また部活でな。
あなた

うんっ。



北一スペシャルかぁ。


競争率高かったりするのかな?


今の会話聞かれてたら、きっと女の子達それ選ぶだろうしなぁ。














【借り物競争】


あなた

…………。



北一スペシャルは、基本クラスごとに4人が2人1組でレースを競う。


私たちは新入生ということもあり、どの競技がどうとか知識があまり無いだろうからという先生の余計な配慮でくじ引きで決めることになったけど……。


あなた

なんで……私だけ、





クジの結果決まった北一スペシャルの割り振りは、こう。



金田一くんと影山くんのペア。


それから、国見くんと知らない女の子のペア。




いつもの4人組のうち、私だけがあぶれてしまったのだ。


それだけじゃない。



お兄ちゃんと思い出作りたかったのに……。



金田一 勇太郎
金田一 勇太郎
ぉわ、お前なんで泣きそうなんだよ。
あなた

うぅ……金田一くんんん、

金田一 勇太郎
金田一 勇太郎
なに、なんだよっ。
先生
先生
自分の出る競技決まったら俺に言いに来いよ〜



でも……無理言って代わってもらうのも悪いよね。


私が引いた借り物競走は、見ている側は楽しいけどやる方はとんだ晒しものだと徹くんから聞いたことがある。



たまに無理難題を押し付けられて、全校生徒に見られながら探し物をし続ける……ちょっとした名物(?)らしい。




あなた

なんでもない……。

金田一 勇太郎
金田一 勇太郎
……?


首を傾げた金田一くんは、「まぁいいか」と受け流して影山くんに声をかけ、先生のところへ行ってしまった。


私も行こうかな……。





クイッ



あなた

っ、?



肘のあたりの布を掴まれて、振り向くと相変わらずの仏頂面の国見くん。


国見 英
国見 英
…………。
あなた

??どーしたの?




国見くんは、視線を右下から左下、左下から右上に動かしてから、やっと私と目を合わせると手に持ったクジを差し出してきた。



国見 英
国見 英
出たいんでしょ?
あなた

え……?




予想もしてなかった発言に、思考が停止する。


国見 英
国見 英
代わる。
あなた

え…………えぇ!?



待っ……え、なんで国見くんが??


あまりの驚きに空いた口が塞がらなかった。




さっきの、お兄ちゃん達との会話を聞かれていたとしても、国見くんがそうやって私のために交換してくれるなんて……それも、私の持っているのは借り物競走なのに。



国見 英
国見 英
なに、いらない?
あなた

いる!!!!




ヒラヒラっとチラつかせるので食い付くと、「ふ、」と小さく笑った。


あなた

え……でも、悪いよ。なんで……?

国見 英
国見 英
……俺、女子とペアとか絶対無理。
あなた

??……あぁ…………そっか。




国見くんは人気者______とはちょっと違うのかもしれないけど、でも女の子達から確かな人気を誇っている。


容姿は整っている方だし、スポーツも勉強もこなすし……。



だけど本人は、それを逆に苦と思っているようで。




徹くんと足して2で割ったらいいくらいなんじゃないかな……?




とにかく。



あなた

ありがとう……!!
ほんとに、ほんとにありがとう!!

国見 英
国見 英
分かったから。その代わり、俺の分も先生のとこ報告しといて。
あなた

なんなりと!!




敬礼して見せると、くぁっとひとつ欠伸を吐いて席に座り、寝始めてしまった。




とにもかくにも私は、無事に北一スペシャル出場の切符を掴んだのだった。

プリ小説オーディオドラマ