昼休み、廊下が騒がしくて覗いてみると案の定徹くんとお兄ちゃんが遊びに来ていて、窓から顔を出してお話しする。
後ろの黒板に貼ってある時間割を見たお兄ちゃんが、「まだみてぇだな」と呟いた。
なんだかラーメンのトッピングのような響きの名前に首を傾げると、フンッと鼻を鳴らした徹くん。
お兄ちゃんは今年で卒業しちゃうし……楽しい思い出作りたいからなぁ。
それに、なんだかとっても楽しそう。
即答した私を見て、お兄ちゃんは優しく笑って頭を撫でてくれた。
お兄ちゃんに引っ張られて帰りかけていた徹くんがビュンッと戻ってきて、窓の向こうから私の上半身を抱き寄せた。
瞬間、教室内も外もザワっと騒がしくなる。
徹くんが来ていたから様子を伺っていたのであろう女の子達が、ボソボソと何やら囁いている。
北一スペシャルかぁ。
競争率高かったりするのかな?
今の会話聞かれてたら、きっと女の子達それ選ぶだろうしなぁ。
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【借り物競争】
北一スペシャルは、基本クラスごとに4人が2人1組でレースを競う。
私たちは新入生ということもあり、どの競技がどうとか知識があまり無いだろうからという先生の余計な配慮でくじ引きで決めることになったけど……。
クジの結果決まった北一スペシャルの割り振りは、こう。
金田一くんと影山くんのペア。
それから、国見くんと知らない女の子のペア。
いつもの4人組のうち、私だけがあぶれてしまったのだ。
それだけじゃない。
お兄ちゃんと思い出作りたかったのに……。
でも……無理言って代わってもらうのも悪いよね。
私が引いた借り物競走は、見ている側は楽しいけどやる方はとんだ晒しものだと徹くんから聞いたことがある。
たまに無理難題を押し付けられて、全校生徒に見られながら探し物をし続ける……ちょっとした名物(?)らしい。
首を傾げた金田一くんは、「まぁいいか」と受け流して影山くんに声をかけ、先生のところへ行ってしまった。
私も行こうかな……。
クイッ
肘のあたりの布を掴まれて、振り向くと相変わらずの仏頂面の国見くん。
国見くんは、視線を右下から左下、左下から右上に動かしてから、やっと私と目を合わせると手に持ったクジを差し出してきた。
予想もしてなかった発言に、思考が停止する。
待っ……え、なんで国見くんが??
あまりの驚きに空いた口が塞がらなかった。
さっきの、お兄ちゃん達との会話を聞かれていたとしても、国見くんがそうやって私のために交換してくれるなんて……それも、私の持っているのは借り物競走なのに。
ヒラヒラっとチラつかせるので食い付くと、「ふ、」と小さく笑った。
国見くんは人気者______とはちょっと違うのかもしれないけど、でも女の子達から確かな人気を誇っている。
容姿は整っている方だし、スポーツも勉強もこなすし……。
だけど本人は、それを逆に苦と思っているようで。
徹くんと足して2で割ったらいいくらいなんじゃないかな……?
とにかく。
敬礼して見せると、くぁっとひとつ欠伸を吐いて席に座り、寝始めてしまった。
とにもかくにも私は、無事に北一スペシャル出場の切符を掴んだのだった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!