京治くんに好きな人がいることが
分かってから約1週間。
京治くんには全然会ってないし
連絡も返していない。
元々私は返信が遅い人間だが。
京治くんには会いたくないと思ってしまった。
菜奈にも相談して
京治くんが学校にいるうちは
忘れるなんてことは出来ないから
少しずつ友達だと思うことにした。
まだその方が気が楽だった。
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私は1週間前に弓道部に入部した。
正式に入部届を提出して
部員になった。
弓道をしている時が
一番楽しくて気持ち良くて
何よりストレスの発散になる
部活に入ったこと
まだ京治くんには言ってない。
菜奈はバレー部のマネージャーに。
碧くんはバレー部に。
入学式の時に声をかけてくれた
南くんは野球部に入部したらしい。
菜奈には、「京治くんには部活入ったことは言わないで」とお願いした。
言うならちゃんと自分で言いたかったから。
でもそんな勇気も無いから、
今はまだ言えていない。
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放課後になり、私は急いで弓道場に向かう。
なるべく京治くんに会わないように。
(今日バレー部はランニング、外でするって言ってたな…)
弓道場のところまで来ませんように、と願った。
弓道部は週に1回
袴をきて練習をする。
私は自前の袴を持ってきた。
中学3年の時に新調したので
まだ着れそうだ。
長い髪を束ねて袴を着る。
嬉しかった。
袴は着慣れているから
しっくりくるだけだと思うけど。
男子も似合ってると言ってくれた。
橋本先輩は少し顔を赤らめて
「似合ってる」と言ってくれた。
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1年生は外で基礎を習うのだが
私はずっと弓道をしていたので
みんなより先に道場にいる。
練習していると
外から足音が聞こえてくる。
(え、木兎さん…!?)
木兎さんがいるということは
バレー部が外周でこの周りを走るってこと…
つまり…京治くんもいる…!
(だめだめ!京治くんのことは考えない!)
そう思いながら弓を引いていると…
京治くんの声が聞こえた。
集中しなければいけなかったのに
京治くんの声が聞こえた瞬間矢が放たれた。
矢は的の真ん中を射抜く。
(だめ…京治くんはこっち見ないで…)
私は彼らを見ないようにした。
木兎さんに気づかれてしまった。
そりゃあんな声で言われたらバレちゃうか…
藍さんに手を引かれ
木兎さんのところに行った。
もちろん京治くんもいる。
(え、どういう関係…?!)
橋本先輩が幼馴染みだと教えてくれた。
でもあんなデレデレな木兎さん見たことない。
楽しそうで何よりだ。
ちょっと不貞腐れてる木兎さん、
少し可愛いなと思ってしまった。
京治くんは少し寂しそうに笑っていた。
1週間ぶりに見る京治くんの顔
1週間ぶりに聞く京治くんの声
全てが切なく見えた。
1年生も追いついたみたいで
そろそろ休憩は終わりらしい。
そう言ってバレー部のみんなは戻っていった。
私たちも練習に戻った。
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練習が終わってから
気になっていたことを藍さんにきいてみた。
(やっぱり〜!!!!)
ドキッとした。
私、そんな京治くんのこと
好きな雰囲気出してた?
藍さんは手を振って道場を出ていった。
私はもう少しして行こうかな、と思い
橋本先輩に声をかけた。
すると橋本先輩も残ると言ってくれた。
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弓道をしている時が一番
落ち着く。
今は練習をしていた方がいいと思った。
京治くんのことを考えなくてもいいんだ。
弓道をしている時だけは自由だから。
橋本先輩に声をかけられ
練習を終える。
気づけばもう19時半だった。
今日は遅くなると夏希に連絡したから
夕飯は夏希に任せてある。
先に橋本先輩が帰った。
私は袴から制服に着替え
弓道をしていた頃のルーティンである
瞑想をする。
瞑想は部活前と部活後必ずするようにしている。
静かに目をつぶって頭をスッキリさせる。
約1分ほどしてから目を開ける。
私の右側に誰か座っていた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!