私は帰路のバスの中で小さくため息をついた。
最近、仕事がうまくいかないのだ。
私の職業は、『声優』
事務所にようやく入れたのだが、全く仕事が来ない。
私は自分で自分を励まし、気合を入れた。
youtubeを開いて、大好きなYouTuberの動画を見ようと思った。
私が大好きなのはフィッシャーズ。
だけど。
あるとき突然、動画投稿が止まった。
三年前に突然。
ツイッターにもシルクだけのツイートが消えた。
アカウントはあるのだが…。
何があったのかは誰も知らないし、他のメンバーもそれについて何も言わなかった。
人知れず、私はボソリといった。
今どうしてるんだろうか……。
動画を見入るうちに、バスが目的地についた。
私は動画を見るのをやめて、バスを降りた。
そのまま自宅へあるきだした。
小さい声でボソボソと歌いながら、歩く。
この時間はどうせ誰も通らない。
歌ったって誰も何も言わないし。
もしかしたら、覚えてる人はもういないかもしれない。
そう思っていたとき。
後ろから声をかけられた。
私は知っていたということと急に声をかけられたことに驚いた。
振り返ると、パーカーを着た背の高い男の人がいた。
暗くて顔が見えない。
男の人は少し笑った。嬉しそうに…。
私以外に、まだフィッシャーズが好きな人がいるのか…?
もしそうなら、嬉しい。
男の人が笑いだした。え、なんで?
暗闇に少しずつ慣れてきた目が見た。
シルクにそっくりな、シルクのお兄さん。
男の人は兄クロードさんだった。
兄クロードさんは、少し寂しそうに笑った。
そう返事したあと、私は耐えられず口をひらいた。
兄クロードさんは急にどこかに電話をかけた。
電話をきって、私の方へ向き直り、兄クロードさんは言った。
その言葉は。
私にとって。
シルクにとっても。
始まりの言葉だった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!