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第1話

始まりの言葉
1,063
2019/05/02 11:56
あなた

はぁ…

私は帰路のバスの中で小さくため息をついた。



最近、仕事がうまくいかないのだ。
あなた

……やっぱり私には無理があったのかな……

私の職業は、『声優』



事務所にようやく入れたのだが、全く仕事が来ない。


あなた

ううん。最初はこんなものだよね。
頑張らないと

私は自分で自分を励まし、気合を入れた。
youtubeを開いて、大好きなYouTuberの動画を見ようと思った。
私が大好きなのはフィッシャーズ。




だけど。









あるとき突然、動画投稿が止まった。



三年前に突然。








ツイッターにもシルクだけのツイートが消えた。

アカウントはあるのだが…。







何があったのかは誰も知らないし、他のメンバーもそれについて何も言わなかった。
あなた

もう一回、皆が楽しそうにしてる動画が見たいなぁ……

人知れず、私はボソリといった。





今どうしてるんだろうか……。






動画を見入るうちに、バスが目的地についた。



私は動画を見るのをやめて、バスを降りた。





そのまま自宅へあるきだした。
あなた

………僕らの色〜……みんなの色〜……

小さい声でボソボソと歌いながら、歩く。





この時間はどうせ誰も通らない。




歌ったって誰も何も言わないし。




もしかしたら、覚えてる人はもういないかもしれない。







そう思っていたとき。
??
君……それって虹?
フィッシャーズの……
後ろから声をかけられた。
あなた

え……

私は知っていたということと急に声をかけられたことに驚いた。



振り返ると、パーカーを着た背の高い男の人がいた。



暗くて顔が見えない。
あなた

え、と………虹、です…

??
フィッシャーズ好きなの?
あなた

えぇ……昔から、ずっと…

男の人は少し笑った。嬉しそうに…。
あなた

あの、貴方も好きなんですか?

私以外に、まだフィッシャーズが好きな人がいるのか…?




もしそうなら、嬉しい。
??
好きかって?
ハハハ、それ俺に聞くなんてなぁ…
男の人が笑いだした。え、なんで?
??
あ、ひょっとして俺が暗くてわかんない?





………俺、兄クロードって呼ばれてたんだけど
あなた

え、えぇ!?

暗闇に少しずつ慣れてきた目が見た。






シルクにそっくりな、シルクのお兄さん。

男の人は兄クロードさんだった。
兄クロード
弟とその友達のこと、嫌いなっていうやついないだろ?
だから、俺はフィッシャーズが大好きだ
兄クロードさんは、少し寂しそうに笑った。
兄クロード
俺以外にまだフィッシャーズのこと好きって言ってくれる人がいてよかった…。
これからもシルクらを待っててくれる?
あなた

も、もちろん、ですっ…

そう返事したあと、私は耐えられず口をひらいた。
あなた

あのっ!!
こんなこと聞くのだめだと思います!
だけど……どうしても聞きたいことが…!

兄クロード
……今、シルクがどうしてるか、かな?
あなた

っ…!

兄クロード
やっぱり気になるかぁ……
あなた

言えないこと、なら…別にいいですっ!
私が勝手に聞いたこと、だから……

兄クロード
いや、答えるよ。
答えた方が、きっとアイツの為にもなるし
あなた

え…?

兄クロード
………君、これから時間ある?
こんな夜中だけど
あなた

何もないです…。
家に帰るだけで…

兄クロード
家はどこ?
あなた

すぐ近くのマンション、です

兄クロード
………そっか。なら大丈夫だ
兄クロードさんは急にどこかに電話をかけた。
兄クロード
もしもし?
あ、俺、今から帰るから。
おう、飯とかいらねぇよ、じゃ
電話をきって、私の方へ向き直り、兄クロードさんは言った。
兄クロード
嫌だったら断ってくれてもいい。
俺と一緒に、俺の家……実家に来てくれないか?





その言葉は。




私にとって。




シルクにとっても。






始まりの言葉だった。

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