私は、車で病院に向かっていた。
鞄には、まだ曲名を決めていない、賢人くんの作った曲の楽譜を入れていた。
私は看護師さんについていった。
そして、病室に入る。
そこにはたくさんの管に繋がれた賢人くんの姿があった。
私はピアノの椅子に座る。
そして気持ちを込めて、賢人くんが作った、曲名が決まっていない曲を弾く。
一生懸命指を動かす。
あ〜、泣きそう。
今までの会話、笑顔、賢人くんの全てが頭に流れる。
死に、近い人々は目を開けることや喋ることができなくても、耳は聞こえる。
聴覚は最後まで残る五感である。
私は賢人くんがこの曲をきいていると信じて賢人くんが好きな曲、賢人くんが作った曲を弾き続けた。
ピーーーーー
皆で手を合わせる。
賢人くんがこの世界からいなくなった。
信じられなかった。













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!