柏木side
あの日、
私はいつも通り鼻歌混じりに家の扉を開けた。
当時付き合ってた彼が他の女を抱いていたけど、
その時は、凄く悲しかったけど
なんて言って励ましてくれる親友が居たから
直ぐ立ち直れたし、
まあ、そういうこともあるよねなんて
自分に言い聞かして、
少し苦い思い出として頭の片隅に残した。
そんな時、ミセスに出会った。
Baby 偽らないで
自分を忘れそうなら
そんな奴らとは離れなよ
自分と生年月日が同じ人を調べていた
ただそれだけだった。
1996年9月14日産まれ
女優 柏木あなた
バンド ボーカル 大森元貴
…
ほんの少しの出来心で、
検索にかけて、
ミセスの楽曲に出会って
毎日が彩られて、キラキラしてる様に思えて
そんな歌詞を生み出しているのが
自分と同じ年齢の大森さんだと言うことを知って
凄く尊敬して、彼の作る音楽に惹かれて
ある番組で実際に大森さんと会って
気付けば好きって実感していて
気付けば、今、隣に居させて貰ってて
優しく微笑みかけてくれる大森さんに
毎回胸が鳴って
他の女性と話してたりするとちょっと
胸が締め付けられて
過去の辛いことなんて
ちっぽけなものにしてくれる大森さんが
そんな所も好きで、
なんて、本当にどうかしている…
瀬戸さんとの一件で、
少し濁った空気が私たちの間に出来た。
それは、瀬戸さんの存在のせいじゃなくて
私がその事で、大森さんの前で泣いてしまったから
大森さんは黙って背中をさすってくれてたけど
きっと良い気はしてなかったと思う。
前までは気にしてなかった沈黙に
気まずさを覚えた。
今、彼は何考えてるんだろうって
不安になったりする。
もしかしたら、飽きられちゃったかも
瀬戸さんに未練持ってるって思われたかも
そうじゃないのに、
私が泣いたのは
瀬戸さんとの関係が原因じゃないのに。
きっと誤解させてしまったような気がして
あの日泣いたのは、
大森さんが離れていっちゃう様な気がしたからで
そんな事思うと、また涙が止まらなくなって
また、困らせてる…
優しい香りに包まれて
また視界が滲んで
なんか、私、弱くなった気がする
大森さんの笑い声が響いて
間の空気が軽くなった気がした。
そう言って、小指を絡めた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。