序章
昔々、あるところに小さい村がありました。
村人は平和に暮らしていましたが、ある日、ひとりが服だけを残して消えてしまいます。
服は大きな爪で引き裂かれ、血がべっとりと着いていました。
狼ではありません。狼は人間を丸呑みになんて出来ないからです。
熊てはありません。大きな熊がでたら誰かが気づくからです。
人ではありません。人には人を引き裂く爪かなんてないからです。
それは人狼のしわざでした。
人狼は人に化ける怪物です。大きな爪で人を引き裂き、大きな口で人を食べる、おそろしい生き物です。仲間に化けた人狼が、こっそり村人を食べていたんです。
村人たちは広場に集まり、輪になりました。そして仲間になりすました人狼を見つけ出すことにします。
人狼は姿形をまねているだけです。話し合いを続ければ必ずどこかで嘘をつきます。
村人は話し合います。嘘をついているのはだれか。
村人は話し合います。怪しいのはだれか。
村人は話し合います。仲間ではないのはだれか。
証拠なんてありません。お互いの顔を見て、声を聞いて、身振り手振りや言葉に注意して、怪しいと思うものを選ぶしかないのです。村人は石を持ち、怪しい仲間に投票します。いちばん多く石を集めたひとりは処刑され、その日の話し合いは終わりです。
ですが、ずる賢い人狼は生きていました。
夜中にこっそり起き出して、村人のひとりをまた食べてしまいます。
次の日、村人は話し合いをすることにしました。
人狼は強い生き物ではありません。二人の村人に囲まれたら、棒でたたかれて負けてしまいます。でも、一対一なら村人に負けることなんてありません。
村人は話し合いを続けます。仲間の中にひそむ、人狼を見つけるために。
人狼は嘘をつき続けます。村人が最後の一人になるまで。