___
俺は昔から口下手だった。
そんな俺を見て人々は口々に
“挨拶もできないんだね”
“かわいそう”
その言葉がどれだけ心を傷つけ抉るのか、考えもしない人たちによって無責任に俺へとぶつけられた。
毎朝起きて鏡にうつる自分が嫌いだった。無理矢理作った笑顔なんて。それでも俺は笑うことしかできないんだ。
ふと見えた庭の花に目が留まる。凛々しく、強く咲く花たちに少し羨ましいと思った。それに引き換え俺は本当にだめな子だ。きっと親にだって期待されていないんだろう。
俺がこんなだからいじめだって当然ある。どれもこれも陰湿で証拠にもならなくて、先生に言えない。友達もいない。
俺は耐えきれなくて学校、家、すべてから逃げた。
走って走って、このまま消えてしまえたなら、なんて思った。
これが俺が能力を持ち始めた話。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!