第8話

□ 𝑪𝒉𝒂𝒑𝒕𝒆𝒓𝟏 ___朝食
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2024/01/24 11:23


何度も往復しながらエマの頬を撫でた後、イザベラは彼女の頬から手を離してあなたの方を振り向く。

イザベラ
あなたもおはよう
あなた
おはよう、ママ


笑顔で挨拶する母に駆け寄るあなた。
それを見たイザベラは、腕を大きく広げて「こっちへいらっしゃい」と自身の胸に飛び込むように誘いの言葉をかけた。

勿論、あなたは迷わずイザベラの胸に飛びつく。

イザベラ
事情はレイから聞いたわ
朝からエマの手伝いと子供達の面倒を見てくれてありがとう
あなた
ううん、それよりも朝ご飯の支度に間に合わなくてごめんなさい……


あなたは反省する子犬のようなか細い声で謝りながら、イザベラから距離を取るように腕を伸ばして数歩後ろに下がる。

レイやノーマンに励まされたとはいえ、やはり自分の役目を全う出来なかった事に心残りがあるのだ。
俯いたまま目を合わせようとしないあなたに、イザベラは有無を言わさずもう一度抱き締める。

あなた
……っえ…?ま、まま?
イザベラ
どうして謝るの?
あなたの行いは思いやりの心を持った素晴らしい行動だわ…!


驚きで目を白黒させるあなたを他所に、イザベラは彼女の小さくて細い体を更に寄せて腕に力を込めた。

一部始終を見ていたエマは何かを伝えようとノーマンとレイに視線を送る。
それは二人も同じで、三人お互いの顔を見合わせて頷くと、一呼吸置いてからあなたの周りに集まった。

レイ
お前、まだ謝ってんのかよ
ノーマン
気にしてないって言ったのに
エマ
そうそう!あなたが手伝ってくれたお陰ですっごく助かったんだから!
あなた
レイ、ノーマン、エマ……


ああ、やっぱりこの三人は仲間思いで優しい。
遅れてしまっても、鬱陶しいほど何度も謝り続けても、それでも彼らは「気にするな」と励ましてくれる。

イザベラ
ね?だから謝らないで
自分の行いに誇りを持ちなさい
あなた
ママ………、うん……!!


母の一言が決定打となったのだろうか。
あなたはこれ以上謝る事はせず、素直に頷いた。




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朝食の配膳が終わる頃には施設の子供達全員が集まり、イザベラは手持ちのハンドベルを鳴らす。
ベルの音を聞いたあなた達は各自食卓の椅子に座り、神に祈るように指を交互に組んで目を瞑った。

イザベラ
おはよう、私の可愛い子供達
こうして今日も38人のきょうだい皆で暮らせる事に感謝して……
イザベラ
『いただきます』
全員
『いただきます』


『いただきます』
それは「食事に携わってくれた人達への感謝」と「食材となった命への感謝」の気持ちが表された食事をする前の挨拶。

あなた達は幼い時からその意味を何度もイザベラに教えられてきた。
食事をする際は感謝の気持ちを忘れないようにと。


イザベラの後に続くように復唱した子供達はすぐに目の前にあるパンや料理を口にする。
あなたもスプーンですくったスープを一口飲んだ。

あなた
う〜ん…!スープ美味しい!
ノーマン
ママのお墨付きだからね
喜んで貰えて何よりだよ


頬に手を当てて幸せそうに食べるあなたに、隣の席に座るノーマンの表情も綻ぶ。

今日のスープはコーンクリームスープ。
普段はあなたとママの二人で味を見ながら作るのだが、遅刻した今日はノーマンが代わりに作ったらしい。

エマ
このスクランブルエッグも美味しいよ!
あなた
んっ、ほんとだ!おいひぃ!!
エマ
でしょー!


ノーマンの向かい側に座るエマにおすすめされたスクランブルエッグは完全に冷めていたものの、卵本来の味を生かした優しい味がして「流石ママ」と心の中で呟く。

口いっぱいにご飯を頬張っていると、あなたの向かい側に座るレイが呆れた目でこちらを見た。

レイ
お前ら女子は『美味しい』としか言えないのかよ
エマ
美味しい物を美味しいって言って何が悪いの!?
レイ
悪いとは言ってない
もう少しマトモな感想言えって言ってんだよ
あなた
えっと……ふわとろで美味しい……?
レイ
何で疑問形
ノーマン
まぁまぁまぁ……


レイが遠回しに喧嘩を売る発言をすると、
その喧嘩をエマが買おうとし、
あなたが発言を訂正しようとするが、
最終的にはノーマンが三人を宥める。

最年長のこのやりとりも何度目だろう。

フィル
4人とも仲良しだね〜


何度も見る光景だが、飽きる事はない。
エマの隣に座るフィルは口の周りにパンくずを付けながら、四人の賑やかな雰囲気に嬉しそうに笑った。




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イザベラ
はい、あーん
コニー
あーん………おいしい…!


一方、イザベラは付け合せの粉吹き芋をフォークに刺してコニーに食べさせていた。
六歳にもなる女児が何故今頃になって食べさせられるのかと思うかもしれないが、それもこれもコニー自らの要望だからだ。

コニーの両腕には相変わらずリトルバーニーが抱えられており、イザベラは仕方なさそうに笑いながらナプキンでコニーの口元を拭う。

イザベラ
甘えん坊さんね、コニー
コニー
だって、今日はいいでしょ?
イザベラ
ええ、そうね____





____今日はコニーの"旅立ち"の日だから。

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