第1話

♟𝑷𝒓𝒐𝒍𝒐𝒈𝒖𝒆
736
2024/01/21 05:46



私には自分より年上の『きょうだい』が三人いる。
自分に自信がない私は昔からオドオドしていて、常に三人の後ろを着いていく日々を送っていた。

そう、あの日も三人の後を追いかけていたっけ。
これは今から5年前、私が6歳の頃のお話。

エマ
……これ、なぁに?


そう私たちに問いながら、目の前にある複数の縦列の鉄の棒を握るのは、年上三人組の一人『エマ』
私もエマと同じように鉄の棒を握って顔を覗かせようとするが、微妙に間隔のある棒同士の隙間から顔を出す事は出来ず、大人しく棒から手を離して数歩後ろに下がった。

私たちの身長より大きなトンネル。
長くて大きな鉄の棒で構成された柵。
何処へ続くかも分からない暗い道。

到底、人が通りたいと思える場所ではない。
でも、私たちはこの場所をこう呼んでいた。

レイ
『門』だよ。中と外を繋ぐもの
あなた
……………………


妙に大人びいている声で答える男の子。
彼もエマと同じ、年上三人組の一人『レイ』

私たちと違って鉄の棒には握ろうとはせず、ただ遠目からトンネルの先をじっと見つめていた。
でも、その目はエマのように好奇心に満ち溢れた目でない。興味なさげに見つめる彼の目と声は、まるでこの先が何なのか知っているかのように私は見えた。

エマ
外かぁ……一度も行ったことないね
ノーマン
僕たち生まれてからずっとここだからね


年上三人組の最後の一人『ノーマン』
三人の中で唯一の天才だが、その分人一倍身体が弱く熱を出す事も珍しくはない。

それでも、頭脳明晰な上に身体能力まで恵まれた三人は私にとって憧れであり、いつか一緒に渡り合う存在でありたいと夢見た日もあった。

エマ
そういえば、ママ言ってたよね!
門と森の奥の柵へは危ないから近寄っちゃダメって
レイ
あんなの嘘に決まってるだろ


門の先を興味津々に見つめるエマに、レイは迷いなくズバッと返答する。
まるで断言するような言い方。
それは私にとって疑問でしかなかった。

あなた
そ、そうかな……?
私はあんなに優しいママが私たちに嘘つくわけないと思う、けどな……


私たちにとって『ママ』は母親そのもの。
かけがえのない大切な存在である事に変わりないから、嘘つきなんて思いたくない。

でも、レイに強く反論する勇気が私にはなくて。
彼に恐怖心を抱いてる訳じゃないけど、気付いた時にはスカートの裾を両手でギュッと握り締めていた。

ノーマン
あなた……
エマ
………………


エマ
ねぇ、あなた!!
エマ
外へ行ったら何したい!?
あなた
え、え……!?
えっと……わたしは……その……


突然話を振られて思わずたじろぐ。
狼狽える自分を落ち着かせる為に、私はエマ達から思いっきり顔を逸らし、先程三人と話していた大きな門を見つめた。

外へ行ったらって事は、この門を潜って先へ進まなければならないということ。
どのみち数年後には私たちも門の先へ行かなければいけないけど、この現状に満足している私からすれば外の世界なんて考えた事がない。

あなた
………ごめん、外に出てからのことなんて考えた事なかった


これ以上、話を長引かせちゃいけない。
これ以上、待たせる訳にはいかない。

キラキラと目を輝かせるエマの期待を裏切る前に、私はまた俯きながら正直な気持ちを伝えた。

レイ
だってさ。そういうお前は?
エマ
キリンに乗りたい!!
レイ
がんば


エマが私に投げかけた質問を同じようにレイがエマに投げかけると、まさかのキリン。
思いがけない返答にレイは呆れたような溜息をつきながら鉄の棒に背を預け、私とノーマンは「エマらしいね」とクスッと笑った。


しかし、その数秒後。
ノーマンの顔から笑顔が消え、不思議そうな眼差しで 左手……右手……と鉄の棒を恐る恐る掴んだ。

ノーマン
これ……
一体何から僕らを守ってるんだろう……


昔からママに言われてきた。


「危ないから近寄っちゃダメ」
「この棒はあなた達を守るため」


でも何故外が危ないのか、一体何から私たちを守るのかまでは知らされていない。
これまで数十人の子供達が門の外に出ているというのに……いずれ自分達もここから出るというのに……。

本当にこの先は危ないのかな?
本当に危ないなら、今まで出ていった子供達は一体どういった生活を送っているのかな?
ちゃんと、幸せになっているのかな……?

あなた
やっぱりレイの言う通り、ママは嘘つきなのかな……


幼いながらに抱いていたママに対する疑問。
しかし、5年経った今ではもう覚えていない。

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