ところがその翌る日のこと……。
昨日取り損ねた九大工学部の記事を、漁りなおしに行くべく、今川橋の下宿から、電車で筥崎の終点へ行く途中、医学部前の停留場を通過すると、職業柄懇意にしている筥崎署の大塚警部が飛び乗って来たので、脛に傷持つ私はちょっとドキンとさせられた。
大塚警部は私よりも十五六ぐらい年上で、二三度一緒に飲みに行ってからというもの、同輩みたように交際っている。かなり狡いところのある男であるが、殆んど空っぽになっている電車の片隅に、私の姿を発見すると、ビックリした表情をしながら、ツカツカと私の横に来て、二十貫目あるという大きな図体をドタリと卸した。それからサアベルを股倉に挟んで、帽子を阿弥陀にして赤ッ面の汗を拭き拭き、頗る緊張した表情で、内ポケットから新聞を引き出すと、無言のまま、私の鼻の先に突きつけた。見ると私が書いた昨日の夕刊記事の全部に、毒々しい赤線が引いてある。
私はわざとニッコリしてうなずいた。その私の顔を大塚警部はニガリ切って白眼み据えた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。