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第5話

注文の多い料理店 5
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2020/05/28 08:57
紳士
その、ぼ、ぼくらが、……うわあ。
がたがたがたがたふるえだして、もうものが言えませんでした。
紳士
げ……。
がたがたしながら一人の紳士はうしろの戸をそうとしましたが、どうです、戸はもう一分いちぶも動きませんでした。
 奥の方にはまだ一枚扉があって、大きなかぎ穴が二つつき、銀いろのホークとナイフの形が切りだしてあって、

「いや、わざわざご苦労です。
 大へん結構にできました。
 さあさあおなかにおはいりください。」

と書いてありました。おまけにかぎ穴からはきょろきょろ二つの青い眼玉めだまがこっちをのぞいています。
紳士
うわあ。
がたがたがたがた。
紳士
うわあ。
がたがたがたがた。

 ふたりは泣き出しました。
 すると戸の中では、こそこそこんなことを云っています。
???
だめだよ。もう気がついたよ。塩をもみこまないようだよ。
???
あたりまえさ。親分の書きようがまずいんだ。あすこへ、いろいろ注文が多くてうるさかったでしょう、お気の毒でしたなんて、間抜まぬけたことを書いたもんだ。
???
どっちでもいいよ。どうせぼくらには、骨も分けてれやしないんだ。
???
それはそうだ。けれどももしここへあいつらがはいって来なかったら、それはぼくらの責任だぜ。
???
呼ぼうか、呼ぼう。おい、お客さん方、早くいらっしゃい。いらっしゃい。いらっしゃい。おさらも洗ってありますし、菜っ葉ももうよく塩でもんで置きました。あとはあなたがたと、菜っ葉をうまくとりあわせて、まっ白なお皿にのせるだけです。はやくいらっしゃい。
???
へい、いらっしゃい、いらっしゃい。それともサラドはおきらいですか。そんならこれから火を起してフライにしてあげましょうか。とにかくはやくいらっしゃい。
二人はあんまり心を痛めたために、顔がまるでくしゃくしゃの紙屑かみくずのようになり、お互にその顔を見合せ、ぶるぶるふるえ、声もなく泣きました。
 中ではふっふっとわらってまたさけんでいます。
???
いらっしゃい、いらっしゃい。そんなに泣いては折角せっかくのクリームが流れるじゃありませんか。へい、ただいま。じきもってまいります。さあ、早くいらっしゃい。
???
早くいらっしゃい。親方がもうナフキンをかけて、ナイフをもって、舌なめずりして、お客さま方を待っていられます。
二人は泣いて泣いて泣いて泣いて泣きました。