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第6話

注文の多い料理店 6
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2020/05/28 08:57
そのときうしろからいきなり、
わん、わん、ぐゎあ。
という声がして、あの白熊しろくまのような犬が二ひきをつきやぶってへやの中に飛び込んできました。鍵穴かぎあなの眼玉はたちまちなくなり、犬どもはううとうなってしばらく室の中をくるくるまわっていましたが、また一声
わん。
と高くえて、いきなり次の扉に飛びつきました。戸はがたりとひらき、犬どもは吸い込まれるように飛んで行きました。
 その扉の向うのまっくらやみのなかで、
???
にゃあお、くゎあ、ごろごろ。
という声がして、それからがさがさ鳴りました。
 室はけむりのように消え、二人は寒さにぶるぶるふるえて、草の中に立っていました。
 見ると、上着やくつ財布さいふやネクタイピンは、あっちのえだにぶらさがったり、こっちの根もとにちらばったりしています。風がどうといてきて、草はざわざわ、木の葉はかさかさ、木はごとんごとんと鳴りました。
 犬がふうとうなってもどってきました。
 そしてうしろからは、
猟師
旦那だんなあ、旦那あ、
と叫ぶものがあります。
 二人はにわかに元気がついて
紳士
おおい、おおい、ここだぞ、早く来い。
と叫びました。
 簔帽子みのぼうしをかぶった専門の猟師りょうしが、草をざわざわ分けてやってきました。
 そこで二人はやっと安心しました。
 そして猟師のもってきた団子だんごをたべ、途中とちゅうで十円だけ山鳥を買って東京に帰りました。
 しかし、さっき一ぺん紙くずのようになった二人の顔だけは、東京に帰っても、お湯にはいっても、もうもとのとおりになおりませんでした。

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