第4話

#3
16
2026/05/13 19:00 更新










夜の安酒場。



ジェームズはグラスを傾けながら、
卓上の数少ない求人欄を睨んでいた。



「経験者募集」
「資格必須」
「紹介状必須」



全部ダメだ。



煙草の煙が目に染みる。



ジェームズ
こいつぁ最高に笑える話だぜ?
罪もない人間の人生は人間の一言で終わるらしい



隣の酔っぱらいも笑った。



👤
みんな終わってるさ
あんたは遅い方だ



その時。



酒場の入口から、
新聞売りの少年が飛び込んできた。



👤
号外ー!
夢の豪華客船!
ポーカーズ・パレス特集!!



客たちがざわつく。



👤
まーたポーカー家か
👤
船の上まで恐慌ってのは届かないのかねぇ
👤
景気が良くて羨ましいよ、金持ちは
👤
ちょっとくらい分けてくれてもいいじゃねぇか
なんてなぁ
👤
俺もこうなりゃ一攫千金でも狙いに行くかね
👤
傑作だぜ!



今のジェームズには、
元新聞社員でも働ける求人以外は興味が移らなかった。



オッサンたちが夢物語を唾とともに飛ばす中で、なけなしの酒を煽る。



一人、老人がボソッと呟いた。



👤
現役の頃はよ、俺ぁ運送の仕事をしてたんだよ
昔、ポーカーズ・パレスから戻ってきた船の点検をしたっけ
ジェームズ
…俺も、ポーカーズ・パレスの記事はいくつも書いたよ
👤
お前さん、メディアマンか
はは、目つきの悪さからなんとなくそうかと思っていたが当たったか
ジェームズ
お言葉だがな、メディアマンは愛想が大事なんだぜ?
俺がこの目つきで何度失敗したと思ってる
👤
いいや、真実をこの目で見抜いてやろうって目はごまかせねぇな
結果目つきが悪くなる
俺は運び屋だったし、もう長いこと生きているんでね、いろいろわかっちまうのさ
ま、あんたはその中でもとびきりだが
ジェームズ
自信になったぜ
ありがとよ
👤
その目はメディアマンには向かねぇが、もう少し向く仕事があるかもな
ジェームズ
なんだよこの古い紙切れは
金と仕事以外は受け取らねぇぞ
👤
なら、仕事の方にしてやろう



そこに、小さな文字で奇妙な広告が載っていた。



────────────────

『ポーカー家の秘密を暴いた者に、
200万ドルを支払う』

“真実を知りたければ、
ポーカーズ・パレスへ”

────────────────



👤
船底に挟まってたのを拾ったのさ
それももう10年以上は前の話だがな
どうだ?
ロマンがあるだろ?
ジェームズ
…おいおいじいさん冗談きついぜ
なんで見ず知らずの俺なんかに渡すんだ
自分で確かめればいいだろ
👤
それが出来たら苦労しねぇさ



老人は、くたびれてボロボロのズボンの裾をめくる。



そこに足はなかった。



ジェームズ
義足…?
👤
フィリピンとの戦争でやっちまったのさ
俺はもう、まともに船には乗れねぇし、命からがら戦争から帰ってきてから、こいつを見つけたのさ
ジェームズ
…っは、そうかよ
不運なことだな



胡散臭い。



どう見ても詐欺だ。



まともな人間なら鼻で笑って終わる。



だが。



ジェームズの財布には、
もう数枚の紙幣しか入っていなかった。



家賃も払えない。



仕事もない。



未来もない。



ジェームズは新聞をじっと見つめる。



200万ドル。



その額だけが、
頭の中で異様に響いていた。



👤
妙だと思わないか?
こんなもんが、ポーカーズ・パレスから帰ってきた船に挟まってるなんてな
しかも、目立たぬように
ジェームズ
俺はあまり頭が良くないんだ
結論から言ってくれないか
👤
悪名高きポーカー家を恨む人間は大勢いる
が…随分分かりにくいやり方だと思わないか?
それに、他に方法はいくつもある
ポーカー家の連中に目をつけられていない限り
…ってのが、若かりし俺の推察よ
ジェームズ
あんたの10年前が若かったとは思えねえが
👤
細かいことはどうでもいいんだよ
ジェームズ
…俺は昔から運の悪い男でな
入りたかった出版社に入り損ねるわ、父親に騙されるわ、まあいろいろだ
つまりはクソッタレの人生ってことさ



そう言いながら立ち上がった。



フロアで騒いでいたオッサンの一人がこちらを見上げる。



👤
おっ、どうしたぁ色男!
夢でも見つけたのかい?
ジェームズ
…いや、そんな楽しいもんじゃねぇが



帽子を被った彼の口角が、少し上がっていた。



ジェームズ
地獄行きのプレミアムチケットなら見つけた



大笑いする片足の老人の声を背に、ジェームズは真っ直ぐに店を出た。













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