第17話

16.嵐の前
104
2024/04/29 00:37
ふくらさんに呼ばれて広間に行くと、河村さん、伊沢さん、とむさんがパソコンを囲んでいた。
あなた
どうしました?
ふくらP
えーっと、ちょっとUSBが無くって。星柄のケースに入ってるやつなんだけど……知らない?
あなた
ん……荷物は全部こっちに来たと思いますが
とむ
うーん、もしかしたら私忘れてきちゃったかもしれないです
ふくらP
あ、そう
あなた
オフィスにあるんですか?
ふくらP
そのはずだけど……とむ、無いと困る?
とむ
はい。“こっち“で撮った動画のデータが半分くらい入ってるので……すみません
皆さんが困っているみたいだったので、見かねて口を出した。
あなた
……良ければ取ってきましょうか?
とむ
いいんですか!?
あなた
はい、すぐなので
河村拓哉
あ、でも……セキュリティとかあるから誰か一緒に行った方がいいよね
とむ
そしたら私行きますよ。忘れたの私だし
ふくらP
じゃあ二人、お願いします
あなた
はい
とむ
はい!
とむさんと二人で旅館から出ると、少し空が暗くなってきていた。
とむ
曇ってきましたねー
あなた
はい。降り出す前に早く行きましょう
広げたままになっていたカーテンの上に並んで座る。
あなた
じゃあ、さっきよりスピード出しますよ
とむ
はーい
20mくらい上昇して、そのまままっすぐオフィスの方に進み出す。
とむ
…ぅ、おっ
とむさんが風にあおられて少しよろめいた。
あなた
あ、ちょっと速いですか?
とむ
いえ、びっくりしただけなので大丈夫です
前髪が風になびいて、顔がよく見える。

にっこりと笑っているとむさんは天使みたいだ。ちょっとどきっとした。


段々と頭上の雲が厚みを増してきた。

パラパラと雨が降り出した頃、オフィスに着いた。
とむ
濡れちゃうー。早く入りましょう
とむさんが何やら入り口で操作をして、オフィスを開けた。

とむさんに付いて中へ入っていく。

とむさんは部屋の電気を点けながら言った。
とむ
探すので、ちょっと待っててくださいね
あなた
はい
部屋の端っこのソファーに座ってとむさんを待つ。
とむ
 えーっと……あれ、こっちにあると思ったんだけど……
窓の外を眺めると、雨は勢いを増してきている。
とむ
……あ、向こうの部屋かな?見てきますね
あなた
はい
しばらくして、遠くからゴロゴロと音が聞こえてきた。

雷が鳴っている。

とむさんがケースを持って部屋に入ってきた。
とむ
ありました!お待たせしまし——
その時、急にバチンと大きな音がして、部屋の電気が消えた。
あなた
わっ
とむ
えっ、停電?あなたさん、大丈夫ですか?どこですか?
あなた
こっちです、部屋の端っこです。そっちに行きます
窓の外も暗いせいでほとんど何も見えない。

手探りで恐る恐る進んでいく。
あなた
………っ!
とむ
おっ……
急にぶつかった。とむさんだ。

びっくりして後ろに転びかける。

すると手が背中に回って支えてくれた。
とむ
大丈夫ですか?
あなた
っ、はい
——ぎゅっ。

体勢を立て直していると、急に体温がすぐ間近まで来た。

ほのかにいい匂いがする。

背中と肩に腕が回っている。
あなた
っ?
一瞬の後、抱きしめられたのだと理解する。

とむさん意外に背が高い……。
とむ
……
……とむさん?あの、ちょっと息が苦しいです……。

というか、なんでこんなに近くに……?
あなた
むぐぅ、……と、とむさん……?
とむ
……何か聞こえませんか?
あなた
え?
耳をすませる。

 どきんどきん、どきんどきん、どきんどきん

……自分ととむさんの鼓動が交互に聞こえる。
とむ
ほら、人の声みたいな……
あなた
……あ、ほんとだ
……ぅうう…うぅうぅぅぅ………ぅぅううぅう…ぅぅぅ………

鼓動の向こうから、人の唸り声のような……。
とむ
……そういえば今朝、山本さんが……
あなた
……。……、とむさん、怖いの平気ですか?
とむ
うーん………。普通ですけど、好きではないです
あなた
もう探してるものは見つかったんですよね?
とむ
はい。……早く出ましょう?
あなた
えっと…、、、その、ちょっと離してほしいです……
とむ
え……?あ、すみません!その、怖くて咄嗟にっ……////
あなた
だ、大丈夫です。出ましょう
とむ
……////っ、
暗闇でもわかるくらい明らかに照れているとむさんの左手を引いて、そそくさとオフィスを後にする。

外に出ると雨が激しく降り注いでいた。旅館からレインコートを呼び出して、とむさんに一着渡す。
とむ
……っ、ありがとうございます……///
外に出ると、いやでもとむさんの顔の赤さが目に入る。

……っ……。

とむさんの照れ顔……なんだかとても罪悪感が……。

こっちまで照れてきてしまった。
あなた
…行きましょう
とむ
はい……
空を飛んで旅館へと戻る。

雨がレインコートの上から打ちつけてくる。

ずっと無言のままで旅館に着いた。

 からからから
あなた
ただいま帰りました
ノブ
あ、おかえり!USB見つかった?
とむ
……はい
蚊の鳴くような声の返事…。

なんだかこっちが悪いことをしたような気持ちになってくる。
ノブ
……。濡れたでしょ、お風呂入って来なよ!あとはこっちでやっとくからさ
とむ
あ、ありがとうございます
ノブ
あなたちゃんも。他の人たち今みんな広間で作業とかしてるから
あなた
ありがとうございます

プリ小説オーディオドラマ