ふくらさんに呼ばれて広間に行くと、河村さん、伊沢さん、とむさんがパソコンを囲んでいた。
皆さんが困っているみたいだったので、見かねて口を出した。
とむさんと二人で旅館から出ると、少し空が暗くなってきていた。
広げたままになっていたカーテンの上に並んで座る。
20mくらい上昇して、そのまままっすぐオフィスの方に進み出す。
とむさんが風にあおられて少しよろめいた。
前髪が風になびいて、顔がよく見える。
にっこりと笑っているとむさんは天使みたいだ。ちょっとどきっとした。
段々と頭上の雲が厚みを増してきた。
パラパラと雨が降り出した頃、オフィスに着いた。
とむさんが何やら入り口で操作をして、オフィスを開けた。
とむさんに付いて中へ入っていく。
とむさんは部屋の電気を点けながら言った。
部屋の端っこのソファーに座ってとむさんを待つ。
窓の外を眺めると、雨は勢いを増してきている。
しばらくして、遠くからゴロゴロと音が聞こえてきた。
雷が鳴っている。
とむさんがケースを持って部屋に入ってきた。
その時、急にバチンと大きな音がして、部屋の電気が消えた。
窓の外も暗いせいでほとんど何も見えない。
手探りで恐る恐る進んでいく。
急にぶつかった。とむさんだ。
びっくりして後ろに転びかける。
すると手が背中に回って支えてくれた。
——ぎゅっ。
体勢を立て直していると、急に体温がすぐ間近まで来た。
ほのかにいい匂いがする。
背中と肩に腕が回っている。
一瞬の後、抱きしめられたのだと理解する。
とむさん意外に背が高い……。
……とむさん?あの、ちょっと息が苦しいです……。
というか、なんでこんなに近くに……?
耳をすませる。
どきんどきん、どきんどきん、どきんどきん
……自分ととむさんの鼓動が交互に聞こえる。
……ぅうう…うぅうぅぅぅ………ぅぅううぅう…ぅぅぅ………
鼓動の向こうから、人の唸り声のような……。
暗闇でもわかるくらい明らかに照れているとむさんの左手を引いて、そそくさとオフィスを後にする。
外に出ると雨が激しく降り注いでいた。旅館からレインコートを呼び出して、とむさんに一着渡す。
外に出ると、いやでもとむさんの顔の赤さが目に入る。
……っ……。
とむさんの照れ顔……なんだかとても罪悪感が……。
こっちまで照れてきてしまった。
空を飛んで旅館へと戻る。
雨がレインコートの上から打ちつけてくる。
ずっと無言のままで旅館に着いた。
からからから
蚊の鳴くような声の返事…。
なんだかこっちが悪いことをしたような気持ちになってくる。