レインコートを脱いで、部屋から着替えを取ってきて大浴場に向かう。
とむさんもやってきた。ぺこ、と軽く頭を下げる。
とむさんは少しためらった後でぺこ、と返してきた。
脱衣所に入って鍵をかける。
湿ったTシャツを脱ぐと、ほのかにとむさんの香りが鼻先をくすぐった。
さっきの出来事が頭をよぎる…。
というか、香りが移るほどくっついていたのか……。とむさんの香りそんなに強くないのに。
ちょっと照れてきてしまった。
残りの服を脱いで籠に入れ、いそいそと浴場に行く。
ざー
頭からシャワーを浴びて少し落ち着いた。温かい。
まだ昼過ぎだけど……なんだかどっと疲れたな……。
皆さんを運ぶのにもまあまあ魔力を使ったし……何より、さっきのとむさんにすごく心をかき乱された。
とむさん……。あんなに麗しい見た目で、すごく多才で……なのにあんなに無防備に人を抱きしめたりして、ちょっと心配になる。
照れさせてしまったのも申し訳ない…いや、私が申し訳なく思う理由はないんだけど。
きゅっ。シャワーを止めて湯船に浸かる。
大きな浴槽に一人。思いっきり手足を伸ばす。指先まで温まって行く感覚。
お風呂上がったらお昼ご飯用意しよ……。
ああああああぁぁあぁぁぁあぁぁあぁぁぁああぁぁあぁあぁあああ……!
何をやっていたんですか私は……!
無意識のうちだったとは言え、あんな純真無垢な女の子を暗闇で一方的に抱きしめるだなんて……!
全世界から非難されても仕方ないですよ……?
…………と、いうか。
なんですかあの愛おしい生き物は……!?
初めて会った時から可愛い子だなとは思ってましたよ?一緒に過ごすうちに礼儀正しい良い子だなと思うようになったし、怖い夢を見たって言って震えているのを見て守ってあげたいとは思いましたよ!?
でも………。
シャワーを全開にして頭から被ります。
…………。
少し落ち着いてきました…。
心を無にして頭と体を洗い、そのまま湯船に浸かります。
……ざー
…壁の向こうから微かに水音が聞こえます。
あなたさんが壁の向こうで入浴して……。
自分の体に起きている変化に気づかないふりをしてぎゅっと目を瞑り、変な考えを頭から追い出します。
だめです、あんな可愛くて純粋で世間知らずな女の子によこしまな思いを抱いては。
……お風呂から上がったら動画の修正をやりましょう…。
問ちゃんと一緒に部屋でトランプで遊んでいると、あなたととむが帰ってきた音がした。
誰かが出迎えに行ったみたいだ。玄関で話し声がする。
少ししてからノブさんが部屋の襖を開けて顔を出した。
ノブさんは他の部屋にも声をかけて回る。
僕らが広間に行くと、他のメンバーたちが集まって来ていた。
ノブさんはUSBをパソコンに差し込んで、カチカチと操作をした。
画面に須貝さんが映り、喋り出す。馴染みのあるロゴと「カチッ」という音、そして出演者たちの自己紹介。動画が始まった。
2本の動画を見終わった頃、とむが部屋に入ってきた。
旅館に置いてあった浴衣を着ている。お風呂上がりみたいだ。
ニコニコと答えるとむ。
役に立てたみたいで嬉しい。
すぐさま動画の振り返りが始まる。
みんなこういうところはちゃんとしてるな。
すると、あなたが部屋に入ってきた。
彼女も風呂上がりみたいだ。髪の毛はもう乾いているけど、浴衣を着ている。
浴衣が似合う…きれいだな……。
……あれ?ということは……。
とむとあなたは一緒にお風呂に入ってたのだろうか……?
てっきりあなたは何か用事があってどこかに行っているのだと思っていたけれど……。
…あ、いや、一緒にお風呂入ってたって、本当に一緒にってことじゃなくって……、やば、ちょっと想像しちゃった……。
でもその、大浴場の壁を隔てて男湯と女湯に同時にいたというのは間違いなくて……。
えーと、そもそも僕は何を考えてるんだ?そんなの関係ないはずなのに。
二人が一緒にお風呂に入ってるところを想像したんです、なんて口が裂けても言えやしない…。
否定したままも失礼かと思い、思ったことをそのまま言った。
口から出てから何を言ったのか自覚し思わずあなたの顔を見ると、頬がほんのり赤い。……お風呂でのぼせたせいかもしれないけど……。
慌てたようにどもりながら言うあなた。
……かわいい。
なんでふくらさんも笑ってるんだ……。
ノブさんまで笑いながら再生ボタンを押した。