第8話

そんな君が気になります パート2
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2020/05/28 02:32
花音
花音
お兄ちゃん……。私、もう学校辞める
翔
は……?
花音
花音
だって……っ。もうっ、もう学校行けないよー!
泣き出した私に焦るお兄ちゃん。

私達は今、誰もいない中庭に来ていた。
さらし者になっていた私を、お兄ちゃんが連れ出してくれたのだ。

あの後、マイクを借りて訂正してくれたお兄ちゃん。

『今のは嘘です!』

そう宣言するお兄ちゃんに、『嘘じゃないよー』と言い出すひぃくん。

物の言い方ってものをもう少し考えてもらいたい。

結局、おやすみのハグをしてるって事で話しは落ち着いた。
さすがに、毎日一緒に寝ているとは言えない。

『昔からハグしてるんです。俺も響と毎日してます』

そう言って、身体を張って実演までしてくれたお兄ちゃん。
その光景に、周りの女の子達からは歓喜の悲鳴が上がった。

それでもやっぱり、一部の女の子からは私に対しての反感の声が上がっていた。

訂正してくれたお兄ちゃんの言葉も、皆がどれだけ信じてくれたかはわからない。

(もしかしたら、誰も信じていないのかも……)

そう考えると、もう学校は辞めるしかないと思った。

反感を買い白い目を向けられ、好奇の視線を浴びる……。
そんな四面楚歌な状況を想像すると、恐ろしくて耐えられない。
翔
大丈夫だって、花音。絶対に大丈夫だから
身体を張ってくれたお兄ちゃんには申し訳ないけど、全然大丈夫なんかじゃない。
花音
花音
無理ぃ……っ
中々泣き止まない私を見て、困り果てたお兄ちゃんは小さく溜息を吐いた。
翔
……花音。学校辞めたら後悔するぞ? 大体、学校辞めてどうする気なんだ? 編入するのか? 就職でもするのか?
急に現実的な話をしだしたお兄ちゃんに、何も答えられない私は口をつぐんだ。
翔
何も考えてないんだろ? ……学校を辞めるって事はそうゆう事なんだぞ?
(そんな正論言われたら何も言えないじゃないか……)
翔
絶対に大丈夫だから。どうしても駄目だったら、その時にもう一度考えればいいだろ? ……な?
お兄ちゃんに説得され、渋々ながらに小さく頷く。
翔
俺も響もいるし、絶対に守ってやるから。……大丈夫だよ
そう言って優しく頭を撫でてくれるお兄ちゃん。

(大体、私をこんな目に合わせた張本人は今何処にいるの?)
花音
花音
……お兄ちゃん。ひぃくんは今どこにいるの?
グズグズと涙を拭きながら、目の前のお兄ちゃんを見上げてそう訊ねてみる。
翔
あぁ……たぶん告白されてるんだろ。さっき女子に呼ばれてどっかに行ったよ
(告白……。告白されてるんだ……ひぃくん)

そんなの今に始まった事ではない。
昔からモテるひぃくんは、よく女の子に告白されていた。

(だけど……。何だろう、この胸のモヤモヤは)

今まで考えた事もなかったけど、いつかひぃくんにも彼女ができるのだろうか?
そう思うと何だか悲しい。

(幼なじみを取られる気がして寂しい……のかな)

何だかよくわからない。

もしかしたら、今会っている人と付き合ってしまうのかもしれない。
そう思うと、気になって気になって仕方がなかった。

何だかよくわからない胸のモヤモヤに、私は少し後悔した。

(……お兄ちゃんに聞くんじゃなかった。もう忘れよう)

そう思うと、涙を拭いた私はパッと笑顔を見せた。
花音
花音
私、戻るね。お兄ちゃん、さっきはありがとう
翔
ん。じゃあ、お昼にまたな
花音
花音
うん。あとでね
私はそう答えると中庭を後にしたーー。



※※※



黙ってモグモグとお弁当を食べる私は、チラリと隣にいるひぃくんを見た。

お昼休憩になり、今私はお兄ちゃん達と一緒に中庭に来ているのだけど……。

(さっきの告白はどうなったんだろう?)

それが気になって仕方がなかった。

隣でニコニコしているひぃくんを見ると、いつもと変わらなく見える。

(聞いて……みようかな)
花音
花音
ひぃくん。さっきのって……どうなったの?
響
んー? さっきのって何?
お弁当を食べる手を止めたひぃくんが、私を見て小首を傾げる。
花音
花音
さっき、告白されたんでしょ……?
少しだけ顔を俯かせると、チラリと様子を伺う。
すると、ピタッと固まったひぃくんが目を見開いた。

(え……な、何? 聞いちゃマズかったのかな)
響
か……っ花音……花音……っ
瞳を小さく揺らし、プルプルと震える手を私に向けて伸ばしたひぃくん。

そのままガバッと私に抱きついたかと思うと、突然大声を上げた。
響
可愛すぎるよ、花音っ! お嫁に来てくれるの?! ありがとう! 大切にするからね!
(どういうこと……? 私の質問はどこにいったの……?)
翔
おい、響
ギロリとひぃくんを睨むお兄ちゃん。
その声に振り向いたひぃくんは、嬉しそうに口を開く。
響
かける、聞いた?! 花音がお嫁に来てくれるって!
そう言ってニコニコと微笑むひぃくん。

私の腕を引っ張ってひぃくんから離したお兄ちゃんは、小さく溜息を吐くと口を開いた。
翔
聞いてないし、言ってない
シレッとした顔をするお兄ちゃんは、自分の隣に私を座らせると再びお弁当を食べ始める。
響
言ったよー! 確かに言った!
(いや……。言ってないです、ひぃくん。私そんな事一言も言ってないよ……。そんな事より、私の質問はスルーですか? 結構勇気出して聞いたのにな……)

そう思うと、私はガックリと肩を落とした。
響
告白が気になったって事は、俺の事が好きだって事でしょ?!
ーーー!?

ひぃくんの発した言葉で、私の顔には一気に熱が集中する。
そして見る見る内に真っ赤に染まってゆく私の顔。

まるで茹でダコのように真っ赤になってしまった私は、ひぃくんに向けて勢いよく声を出した。
花音
花音
ちっ、違う! 違うもんっ!!
(なんて事だ……。ひ、ひぃくんを好きだなんて……。そんな事あるわけない! 違う、絶対に違う……っ)

カーッと熱くなる顔に、自分でも動揺が隠せない。

確かにひぃくんの事は好き。
だけど、恋とかじゃない。
幼なじみとして好きなだけ。

大体、さっきだってひぃくんのせいで酷い目に合ったのだ。そんな人を好きになる訳がない。

そう自分に言い聞かせる。
響
かのーん!
ーーー!?

嬉しそうな声を上げ、いきなり飛び付いてきたひぃくん。
そんなひぃくんを支えきれなかった私の身体は、ゆっくりと後ろへ向かって傾いてゆく。

(えっ……ここ、ベンチ。落ちるっ!)

私はギュッと目を閉じると衝撃に備えた。

(あ、あれ……? 痛くない)

恐る恐る目を開くと、目の前にはひぃくんらしき胸板が。
翔
……っ。おい、ふざけんな響
背後から聞こえるお兄ちゃんの声。
どうやら私は、お兄ちゃんを下敷きにして倒れているらしい。

きっと、私を庇ってくれたのであろうお兄ちゃん。

上にはひぃくん、下にはお兄ちゃん。

(笑えない……。何このサンドイッチ)
翔
早く退け、重い
(ごめんなさい……お兄ちゃん。私動けません。苦しくて声すら出せません……)

全く退く気のないひぃくんは、私の上で「かのーん。かのーん」と嬉しそうな声を出している。

(く……苦しいっ)

苦しさから少し顔を横へと動かしてみれば、中庭にいる生徒達が視界に映る。

三人で抱き合ったまま転がる私達。
そんな私達を見て驚く人、クスクスと笑う人……。

また私は、皆の前で醜態を晒してしまったらしい。

(……もう嫌。なんでいつもひぃくんてこうなの……っ。絶対にひぃくんを好きだなんて有り得ないよ……)

私の上で嬉しそうな声を出しながら揺れているひぃくん。
私はひぃくんに抱かれながら、苦しさに顔を歪めた。

(お願い、揺れないで……。苦しいし……恥ずかしいっ)


ーーその後、お兄ちゃんが無理矢理ひぃくんを退けるまでの間、私はずっと潰れた蛙のような呻き声を上げていた。







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