ーー明日はいよいよクリスマス。
といっても、自宅でのホームパーティーしか予定の入っていない私。
ひぃくんと付き合っている事はもう知っているのに、二人きりでのデートは許してくれなかったお兄ちゃん。
(せっかくのクリスマスなのに……。恋人同士になってから、初めて迎えるクリスマスなんだよ? イヴの日くらい……ひぃくんと二人きりで過ごしたかったなぁ……。お兄ちゃん酷いよ……っ)
不貞腐れた顔でひよこをギュッと抱きしめると、そのままベッドへ倒れ込む。
ポツリと小さな声で呟いた私は、そのままひよこへ顔を埋めた。
ーーーカラッ
思わずブルッと身震いしてしまいそうな冷気が吹き込んだかと思うと、その数秒後に私の頭にフワリと優しく触れた暖かい手。
頭上から聞こえてきた心地よい声に顔を上げると、私と目の合ったひぃくんが優しく微笑んだ。
確か、さっき携帯を見た時はまだ十九時だったはず。
そんな時間帯にひぃくんが窓をつたって来るなんて珍しいのだ。
不思議に思って見つめていると、ひぃくんは小首を傾げてフニャッと笑った。
(……そんな事を一々聞きに来たの?)
ひぃくんの質問の意図が解らずに少し戸惑う。
そんな私を見たひぃくんは、クスリと小さく微笑むと私の身体を優しく抱き起こした。
驚いた顔をみせると、私の頭を優しく撫でたひぃくんはフニャッと笑って小首を傾げた。
そう言ってニッコリと微笑むひぃくん。
勢いよく立ち上がった私は、抱えていたひよこをベッドへ放り投げるとクローゼットへ走り寄る。
そんな私を見て、ひぃくんはクスクスと笑い声を漏らす。
そんなことを言いながら、私の放り投げたひよこを掴み上げてフニャフニャと手のひらで揉み始めるひぃくん。
ブツブツと文句を言いながらクローゼットを漁る。
ーーー?!
不意に後ろから抱きしめられ、驚いた私はピタリと動きを止めた。
耳元で甘く囁かれたその声に、ドキッと跳ねた心臓が急激に心拍数を上げてゆく。
私の髪に優しくキスをしながらそう告げたひぃくんは、私の顔を覗き込むと優しく微笑んだ。
フニャッと笑ったひぃくんは、私の頭を優しく撫でるとヒラヒラと手を振って自室へと戻って行く。
一人部屋に残された私は、未だ早鐘を打つ胸にそっと手を当てた。
最近のひぃくんはなんだかおかしい。
……いや、元々変ではあるのだけど。
なんというか、時々もの凄く甘い声を出す……気がする。
(単なる、私の思い過ごしかな……)
静まってきた胸から手を離すと、一度小さく息を吐いて再びクローゼットの中を物色し始める。
その中から一枚のワンピースを選ぶと、目線の高さで広げてみる。
以前、ひぃくんが可愛いと褒めてくれたピンクのワンピース。
そのワンピースに合わせて真っ白なコートも取り出すと、私は今からのデートにウキウキと胸を弾ませながら支度を始めたーー。
※※※
先程撮ったばかりのツリーの写真を眺め、ニコニコと微笑んで歩く。
繋いだ手を軽く揺らしながら並んで歩く私達は、お互いの顔を見てクスクスと笑い合う。
今年は一緒にツリーを見に行けないと諦めていた私。
だから、今日こうして一緒に見れた事がとても嬉しかった。
私は左手に持った携帯に視線を戻すと、何枚か撮った写真をスライドさせてゆく。
ツリーをバックに二人並んで撮った写真を見せると、ひぃくんはフニャッと微笑んで口を開いた。
そう言ってコートのポケットから携帯を取り出したひぃくんは、画面を眺めて何やら嬉しそうに微笑んでいる。
手元の写真を見せて懸命にアピールするも、あえなく却下されてしまった私のお勧め写真。
私は自分の携帯へと視線を戻すと、今回もダメだったかとガックリと肩を落とした。
(絶対にこっちの方が良いのに……。何でアレが良いの?)
待ち受けを変更して欲しくて、新しく写真が増える度に色々勧めている私。
だけど、どうやらひぃくんは待ち受けを変える気はないらしい。
手元の携帯を眺めて、それはとても嬉しそうな笑顔で「可愛いー、可愛いー」と連呼している。
(それの、どこが……?)
白目の私が待ち受けになっているひぃくんの携帯を横目に、ひぃくんの嬉しそうな姿を見て顔をヒクつかせた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。