第58話

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2021/03/22 03:00





高校の最寄駅にたどり着き、地下鉄から降りる。それからもずっと、一成の隣にはさっきのセクシーな女の子。



一成が私じゃない女の子と並んで歩いているのなんて見慣れているはずなのに、でも相手が一成の理想通りの女の子だと、こんなに苦しくて不安になるんだ…






だから




2人の背中を見たくなくて…








本来なら2番出口から地上に昇るのが一番高校に近いのに、わざわざ高校の門から遠い5番出口に向かった。








5番出口は人もまばらで、冷たい空気さえも清々しい。階段を昇るにつれて、ほっぺを刺す風が痛かったけど、心の痛みに比べたら大したことなんてない。それでもやっぱりチクチクって痛むから、手袋で包まれた手を頬に乗せて慰めようとしたら




















ぺたっ







え?






ほっぺに触れた温かいものはヒトの手なんだってすぐにわかった。
その持ち主を確かめようと、本能的に首を動かしたら




「 ぁっ、拓実君 」



「 おはよう、あなたちゃん
今朝も寒いね


ほっぺ真っ赤だけど大丈夫?寒い? 」





同じクラスの川西 拓実君。
彼とは何度か席替えで隣同士に座る機会があって、自然と仲良くなった。校内のカフェテリアで一緒にお茶をしたり、結構な時間を過ごしている。



女の子の扱いが上手な彼は、一成みたいにコーンスープで私を温めようとはしなくて。
私の目の前に立つと、わざわざもう一方の手袋も外して、手のひらでほっぺを挟んでくれた。



 

「 寒いだけじゃないみたい

瞼、真っ赤だよ?
悲しいことがあったの? 」



「 うん… 少し
ありがとう、拓実君。
あの、人通りが少ないからって、こんなことしてるのを誰かに見られたら誤解されちゃうよ? 」



「 そう?別にあなたちゃんが相手なら誤解されてもいいけど


それより、出口って逆の方が近くない? 」




「 うん、ちょっと…
会いたくない人がいたから。拓実君は? 」




「 俺はコンビニがこっちの方が好きだから。空いてるし。
毎朝ここで缶コーヒー買ってるの。そしたらあなたちゃん見つけて、思わず手が出ちゃった。 」






相変わらず拓実君の手は私のほっぺ。
こんな状態、いくら好きな人じゃなくたって恥ずかしくって… みるみるうちにほっぺは赤く熱くなっていく。




彼の瞳が優しく細められたら、胸の高鳴りも凄まじくて… 恥ずかしさから隠れるように俯いたら、拓実君はクスクス笑って





「 あったかくなったみたいだね。
じゃあ行こうか 」



「 うん 」




拓実君とは授業の話や彼のバイト先の話で盛り上がった。一成と同じくらいよくおしゃべりしてくれる彼とは、一緒にいてもすごく楽しい。




2番出口の看板が見えてきた頃、拓実君はおもむろに


「 そういえば、今朝はあの大きな幼馴染君は?一緒じゃないの? 」



「 うん、途中までは一緒だったんだけど、お友達と先にいっちゃった 」







お友達か… いつかはあの人が一成の次の彼女になるの?


そんなの






嫌だよ








「 そっかぁ…

あれ?でも、待ってるんじゃない?あなたちゃんのこと 」


「 え?





ぁ、一成 」









2番出口から出てすぐのところで、一成は次々に地上に登ってくる高校生の集団を見送りながら立っていた。




かっこいいし背も高いからすごく目立つ…
女の子達、振り返って一成の事見てるよ





近付くにつれてよくわかる… 不安そうな表情は、まるでなかなか戻ってこない飼い主さんを寂しく待っているわんちゃん。
おっきいのに可愛くて… でも、今はキュンとするより切なくて泣きそうになる。





彼がああやって待ってくれる女の子が、羨ましいな… って。









さっきの女の子は?
どうして1人なの?







一成は私と拓実君に気がついたみたいで、じっとこちらを見つめている。





どうしたの?
私を待っていたの?
そんなはずないよね?





「 行ってきたら?
その瞼の原因、彼なんでしょ? 」


「 う、うん… 」








拓実君の言葉に背中を押されて一成の元へと歩んでいく。そうしたら彼も止めていた脚を進めてきて





いつもの距離感までお互いに近付くと




「 今のって川西拓実くんだよな? 」


「 うん、そうだよ 」



「 そっか…


あいつと行くの?映画 」


「 ぇ、あ、行かないよ? 」


「 じゃあ、また別の男? 」


「 え?なんで… ? 」


「 だってお前



最近告白されたって… 噂で聞いたから 」











告白?



何を言ってるの?






「 そんな、される訳… 」





慌てて否定をしたら一成の表情はほんの少し柔らかくなった。でもまたすぐに眉が歪んで



「 じゃあ好きなやつは?川西拓実? 」



「 好きな人は… 」































一成だよ





なんて言えるはずない。


一成の理想の女の子像に少しもかすっていない私から思われたって、彼は迷惑だろうし…








「 もういないよ 」





掠れた声で呟いた声は、学生達の話し声にも車のエンジン音にもかき消されるほど小さいはずなのに、一成はそれをしっかりと拾い上げた。






「 いないんだ。
ならいい 」



「 え? 」



「 好きな男がいないんなら、それでいい


これから先も、誰も好きにならなきゃ…それでいい



俺以外 」






え?
俺以外?








「 一成? 」



「でも、その腫れた瞼が俺のせいなら…

俺のせいなら… 」











チュッ






瞼にちょっとだけ湿ったものが触れて。
それを一成の唇だって気がつく頃には、私の手は彼の手にしっかりと握り締められていた。




もうすっかり冷めたコーンスープは一成のバッグの中。
代わりに私を温めてくれるのは、「 一成 」っていう存在みたい。
彼に手を引かれるそれだけで、本当は簡単にあったかくなるんだから。





















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