あなたside
半年?……半年?
今から半年なんて、1月までしか生きられないってこと?
私は、来年の春は決してみんなといられないということ。
来年の桜は決して見れないということ。
…私に、26歳は来ないということ。
それしかわからないということ。
きっと今、お兄ちゃんに会ったら泣いてしまう。
それでも、壱馬のいる、待ってる家に帰れる自信がなかった。
先生もそれをわかってての配慮だったんだろう。
診察室から出ると、お兄ちゃんが辛そうで悲しそうな笑顔で迎えてくれた。
予想通り、お兄ちゃんを見た瞬間、私は涙が止まらなかった。
この後、ママとパパになんて言えばいい、
楓雅になんて話せばいい。
…メンバーに、壱馬になんて話せばいい。
そんなことが脳内を駆け巡った。
母さん大喜びだよって笑ってるお兄ちゃんはきっと私を励ましてる。
…というより、笑顔にさせようとしてくれてるんだ。
それでも、笑える余裕がないのは確か。
そう口にした時、さっき枯れるほど泣いたはずの涙がまた溢れてきた。
車を停めたお兄ちゃんは、少し考えるようにして、私を抱きしめた。
小さい頃、抱きしめてくれたみたいに。
お兄ちゃんはそう言って、車を出発させた。
家までの車内と飛行機の中は、ママが何を作ってくれてるかを2人でただ予想してた。
家に着けば丁度楓雅も到着したとこだったらしく。
家に入っていくお兄ちゃんと楓雅を見ながら1人で玄関に立ち尽くしてた。
さっきお兄ちゃんは一緒に言ってくれるって言ってくれたけど、それでも怖い。
これまで、散々迷惑かけて心配かけてきた親にさらに心配させるなんて、
そう言ったパパは、早くご飯食べないとママが悲しむぞと言ってリビングに消えていってしまった。
…私のタイミングでゆっくり話せばいい。
ママとパパは気づいてるんだ。
もう、話すしかない。
話さなきゃならないことなんだから。
笑顔で私の言葉に返事をしたママの顔を見るとまた泣きそうになった。
それでもお兄ちゃんが傍で大丈夫と言ってくれたから、安心できた。
最近調子が悪くて先生に相談したらそう言われた。
そういえば、そう、と納得した。
この先の言葉、少し言いづらいし、これはお兄ちゃんと知らないからみんなをびっくりさせるかもしれないけど、言わなくちゃならない。
予想通り、家族全員が固まった。
いずれ知ることになるからいいよね。
俯いたまま、4人の反応を待った。
涙をすする音がして、ああ、ママ泣いてるんだなって感じた。
その音が近くなってきたと思えば、
そう言って私をただ抱きしめた。
1人で聞かせるんじゃなかったって言うママはただごめんねって言うだけで。
ママのせいじゃないのに、誰のせいでもないのに。
後日、HIROさんとメンバーにも伝えることになるんだろう。
その時、どうするか話し合うことになるんだろうな。
そう言った楓雅は携帯を持って廊下に消えていった。
お兄ちゃんも携帯を持って家を出た。
リビングに戻ってきた2人は、同時に、
俺もしばらくこっちにいる、そう言った。
2人とも休み取るの難しいだろうに。
私のためにわざわざとってくれたんだなって感じて少し笑った。
この先の楓雅を見れないと思ってしまって、悲しくなったのは心の中に閉まっておこう。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!