第4話

覚悟
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2024/02/14 09:00
水原 香恋
水原 香恋
(本物のデスゲームに巻き込まれたんだ……)
 まだ、京たちの悲鳴が耳にこびりついている。何が起きたのか、実際に目にしなくても、モニターに映った血液と、しんと静まり返った参加者たちの姿が物語っている。
粕谷 壱
粕谷 壱
なあ、嘘だよな……? ドッキリかなんかだろ?
真壁 琥太郎
真壁 琥太郎
到底、そうは思えないが……
辰巳 大和
辰巳 大和
……キッツー……
天羽 りる
天羽 りる
……ひどい
粕谷 壱
粕谷 壱
まさか本当に殺した……のか?
なんでだよ! 
オレたちに何の恨みがあるんだよ!
 上ずった声で、壱がラブリーメリーを問い詰める。他の参加者も、香恋や嘉斗も、ラブリーメリーの言葉を待つ。
ラブリーメリー
ラブリーメリー
恨みはないメリー。お前たちは応募者の中から選ばれた。
それだけメリー
辰巳 大和
辰巳 大和
……なんでウチらが選ばれたの?
なんのためにデスゲームなんてするの!?
愛の証明と何の関係があんの!?
ラブリーメリー
ラブリーメリー
スミマセン、ヨクワカリマセン、メリー!
真壁 琥太郎
真壁 琥太郎
殺人は立派な犯罪行為だ。三人も殺害したとなれば極刑は免れない
 凛とした態度で詰められても、ラブリーメリーは愉快そうな表情のままだ。ずっと笑っているようにプログラミングされているのかもしれない。それが、かえって不気味だ。
ラブリーメリー
ラブリーメリー
だから?
お前たちは、自分の意志で応募して、ここに来たメリー。
お前たちが『ラブペア応援団』を利用して夢を叶えようとしたように、
メリーにも目的がある。それだけメリー
 身体から、血の気が引いていく。
 ラブリーメリーの言葉は、AIが突然意思を持って返答してきたような、得体の知れない恐ろしさを突きつけてくる。
水原 香恋
水原 香恋
(ここから生きて帰れるのかな……)
 不安が脳裏を渦巻く。
花宮 嘉斗
花宮 嘉斗
水原のことは、俺が守るから
 嘉斗が囁いて、手を繋いでくれる。
 香恋は、その手が震えていることに気が付いた。
水原 香恋
水原 香恋
(花宮先輩だって怖いに決まってる……。
余計な心配をかけないようにしないと)
 他の参加者たちも怯えた様子で、モニターを見ないようにしている。
辰巳 大和
辰巳 大和
……他人を頼って楽してお金をもらおうとした天罰、
ってことかぁ
真壁 琥太郎
真壁 琥太郎
生きてここから出たければ、怯えている暇などないな。
そうだろう、大和
辰巳 大和
辰巳 大和
……だね
粕谷 壱
粕谷 壱
そんなの、やりたいバカだけやればいいだろ!
オレはもう帰りてぇんだ!
金なんていいって言ってるだろ!
真壁 琥太郎
真壁 琥太郎
見たでしょう、ここから出る方法は無い。
本当にデスゲームが行われているんです。
腹をくくったほうが良い
粕谷 壱
粕谷 壱
てめぇに何が分かるんだよ!
オレは騙されたんだ!
主催者ってやつにも! こいつにも!
天羽 りる
天羽 りる
りるは騙してない!
イチがお金あったらホストやめて一緒にいてくれるって……
水原 香恋
水原 香恋
(ど、どうしよう……)
花宮 嘉斗
花宮 嘉斗
……
 言い争う彼らの間に、嘉斗が割って入っていく。
花宮 嘉斗
花宮 嘉斗
ここで言い争っても、デスゲームは終わりません。
それなら脱出する方法や、ゲームを終わらせる方法を
探した方が良いんじゃないでしょうか
粕谷 壱
粕谷 壱
そうだよ!
オレはこんなゲームやりたくねえんだ!
ラブリーメリー
ラブリーメリー
しょうがないメリー。じゃあ特別措置メリー
 ラブリーメリーはわざとらしく考え込む素振りをしてから、また不気味な笑みを見せた。
粕谷 壱
粕谷 壱
ここから出してくれるのか!?
ラブリーメリー
ラブリーメリー
条件を満たせば良いメリー
水原 香恋
水原 香恋
(条件……?)
ラブリーメリー
ラブリーメリー
≪黒幕探し≫メリー。
参加者の中に、本当の主催者、『黒幕』が紛れ込んでいるメリー。
メリーのご主人様メリー
 ラブリーメリーの告白に、参加者たちがざわつく。
ラブリーメリー
ラブリーメリー
見事見つけだせたら、その黒幕の命と引き換えに
デスゲームを終了できるメリー。
黒幕を見つけたらメリーに宣言をするメリー
粕谷 壱
粕谷 壱
そんなの簡単じゃねえか!
よし、片っ端から――
ラブリーメリー
ラブリーメリー
ただし!
メリーに黒幕の宣言が出来るのは各ペア一回きり。
どうして黒幕だと思ったのか証拠も一緒に出すメリー。
証拠もないのに黒幕宣言するなんて外道メリー! ひどいメリー!
川瀬 玲
川瀬 玲
……外道って、言える立場じゃないだろうに
ラブリーメリー
ラブリーメリー
ちなみに、黒幕宣言に失敗したら、その時点でゲームオーバーメリー
守岡 樹
守岡 樹
チャンスは一回。間違ったら死ぬってことか……
 樹のつぶやきに、辺りが静まり返る。しかし、ラブリーメリーだけは場違いなほど明るい。
ラブリーメリー
ラブリーメリー
じゃあ、メリーはさっきの死体どもを処理してくるメリー。
しばらく自由時間でいいメリー。
好きにこの建物を見て歩くと良いメリー。
でも、探索中に何かあっても、メリーは知らないメリー!
 ラブリーメリーはそう言って、部屋から出ていった。
粕谷 壱
粕谷 壱
なるほどな、この中に黒幕がいるってんなら話が早い。
お前らが黒幕だろ!
 壱は自信たっぷりに、琥太郎・大和ペアを指さす。
辰巳 大和
辰巳 大和
はぁ!? ウチらのどこが黒幕なわけ!?
粕谷 壱
粕谷 壱
おかしいと思ったんだよな。
だって目の前で人が死んだんだぜ?
なのに怯えてる暇はない? 楽して金をもらおうとした天罰? 腹をくくれ?
辰巳 大和
辰巳 大和
ウチは……
 大和が目を伏せる。それまでの明るい笑顔は一切無く、心なしか顔色が悪い。
真壁 琥太郎
真壁 琥太郎
俺たちは黒幕ではありません。
大和は……辰巳組組長の娘。
一般人よりこういったことに慣れているだけです
粕谷 壱
粕谷 壱
辰巳組って……
 辰巳組。香恋も時々テレビのニュースで耳にしたことのある任侠一家だ。
粕谷 壱
粕谷 壱
極道の娘だったら、なおさらこういうことできんじゃねーの?
金だって、場所だってあんだろ? そうに決まってる!
辰巳 大和
辰巳 大和
違うって、ウチは組と関係ないし……
真壁 琥太郎
真壁 琥太郎
大和がこんなことをするはずがありません。
大和は見掛けや家の関係で誤解されやすいが、
粕谷 壱
粕谷 壱
そりゃ彼氏の前では良い子ちゃんのふりするだろうよ!
辰巳 大和
辰巳 大和
ウチらは、まだ付き合ってない……。
親父にも、コタのパパにもダメって言われたから……
天羽 りる
天羽 りる
……身分違いだって言ってたね
 りるの言葉に大和が力なく頷き、琥太郎は薄く息を吐き出した。
真壁 琥太郎
真壁 琥太郎
俺の父は刑事なんだ。
……当然、辰巳組のことを良く思っていない。
それでも、俺は、大和と一緒にいたいんだ
辰巳 大和
辰巳 大和
金銭援助をしてもらえたら、
親父たちと縁切って、どっか遠いところに行って
コタと一緒に暮らすつもりだった。
ウチらもアンタたちと同じ被害者なんだよ、分かったか!
 啖呵を切られ、壱は歯ぎしりをすると、今度は千隼たちを睨みつけた。
粕谷 壱
粕谷 壱
じゃあ、お前らか!? 妙に冷静だもんな!
黒幕だから驚きようがねえってことだろ!
守岡 樹
守岡 樹
……自分よりテンパってる人間がいると、冷静になってくるだけだ
三好 千隼
三好 千隼
それに、オレらも巻き込まれただけっすよ
川瀬 玲
川瀬 玲
そういう粕谷さんたちこそ、黒幕じゃないんですか?
粕谷 壱
粕谷 壱
オレたちを疑うってのかよ!
川瀬 玲
川瀬 玲
先に他人を疑ったのはあなたでしょう。
ホストなら、かなりお金を稼いでいるのでは?
だとしたら、デスゲームを主催する費用とか、場所の用意とか
できるんじゃないでしょうか
粕谷 壱
粕谷 壱
はぁ!? オレの金をこんなことに使うわけねえだろうが!
天羽 りる
天羽 りる
りるたちの将来のために使うんだもんね?
白井 瑠華
白井 瑠華
やめましょう。
このまま言い争いをしたところで、意味があるように思えませんから
 瑠華が肩をすくめる。
辰巳 大和
辰巳 大和
同感~。
黒幕かって聞かれて、素直に『はいそうです』って言うような人が
デスゲームなんてするわけないっしょ
 調子を取り戻したのか、大和が明るい調子で一蹴する。壱はまだ何か言い足りないようだったが、分が悪いと感じたのだろう、扉に向かってずんずんと歩き出した。りるは一瞬、引きずられそうになっていたが、すぐにニコニコと笑いながら壱と腕を組む。  
粕谷 壱
粕谷 壱
ぜってぇ証拠見つけて、こんなクソゲームとっとと終わらせてやる!
真壁 琥太郎
真壁 琥太郎
俺たちは出口がないか探しに行こう
辰巳 大和
辰巳 大和
そだね。出口見つかったらみんなに共有すんね
 壱たちの後に続くように、ひらひらと手を振って、大和たちも部屋から出ていく。
水原 香恋
水原 香恋
(私たちも何かしないと……。
でも……探索中に何かあっても、ラブリーメリーは知らないって言ってた……。
何か起きるってことかな……)
水原 香恋
水原 香恋
あの、白井さんたちも探索しますか?
それなら一緒に……
 声を掛けると、瑠華はゆるく首を振った。
白井 瑠華
白井 瑠華
申し訳ないけれど、別行動をさせていただきます。
この中に黒幕がいると聞いた以上、誰のことも信じられませんから
水原 香恋
水原 香恋
そっか……
 そう言い置いて、瑠華も玲を連れて最初の間から出ていった。
三好 千隼
三好 千隼
やっぱりみんな探索に行くんだね
 千隼に声を掛けられてほっとする。
三好 千隼
三好 千隼
嘉斗くん、さっき仲裁した時かっこよかったね。
自慢の彼氏じゃん
 嘉斗を見ながら、千隼が香恋に耳打ちしてくる。香恋は慌てて首を横に振った。
水原 香恋
水原 香恋
あ、違うんです! 先輩は恋人ではなくて……
三好 千隼
三好 千隼
そうなの? ……じゃあ、片想いだ
水原 香恋
水原 香恋
分かるんですか?
三好 千隼
三好 千隼
まあね。上手くいくよう祈ってるよ
 ふふ、と千隼が柔らかく笑う。
水原 香恋
水原 香恋
……三好さんたちは……
三好 千隼
三好 千隼
オレから樹に告白したんだ。
小学校からの幼馴染なんだけどさぁ――
守岡 樹
守岡 樹
おい、そんな話をしにきたわけじゃないだろ
三好 千隼
三好 千隼
あ、そうそう、一緒に探索しようってお誘いに来たんだ。
黒幕がいるなんて聞いちゃったし、
信じられる相手って多い方が良いと思うんだ
 ね、と千隼が香恋と嘉斗を交互に見る。
花宮 嘉斗
花宮 嘉斗
いや、今回は遠慮しておくよ
三好 千隼
三好 千隼
そっか。じゃあ、樹とデートするかぁ
守岡 樹
守岡 樹
不満そうに言うな
三好 千隼
三好 千隼
冗談だって
 歩き出した拍子に千隼がふらついた。その腰を樹が咄嗟に支える。
守岡 樹
守岡 樹
お前……
三好 千隼
三好 千隼
大丈夫だって、ちょっと疲れただけ
守岡 樹
守岡 樹
どっか休める場所探しに行くぞ
三好 千隼
三好 千隼
過保護だな~
 樹に手を引かれて歩き出しながら、千隼が振り向いて手を振ってきた。
 手を振り返し、その後ろ姿を見送る。

 残ったのは、香恋と嘉斗の二人だけ。
水原 香恋
水原 香恋
わ、私たちも行きましょう!
花宮 嘉斗
花宮 嘉斗
……水原、無理してない?
 歩き出そうとすると、手首を引かれた。振り返り、香恋は苦笑する。
水原 香恋
水原 香恋
……お見通しですね
花宮 嘉斗
花宮 嘉斗
水原は分かりやすいからね。
さっきから妙に張り切ってるし
水原 香恋
水原 香恋
私も何かしなきゃいけない気がして……
花宮 嘉斗
花宮 嘉斗
疲れてるなら、今は休もう。自由時間だし
水原 香恋
水原 香恋
……そうですね
 嘉斗に促され、香恋は床に腰を下ろす。
花宮 嘉斗
花宮 嘉斗
あんなことがあった後だしさ。
なんか楽しいこととか話して、気分転換しよう。
ゲームはまだ、続くから
水原 香恋
水原 香恋
(先輩はこんな時でも私のことを考えてくれてるんだ……)
水原 香恋
水原 香恋
……先輩がいてくれて良かったです。
私一人だったら、きっともうダメだったと思います
花宮 嘉斗
花宮 嘉斗
……そんなことない。
水原は一人でも上手くやってたと思うよ。
俺こそ、水原がいなかったらダメだったし
 ふふ、と嘉斗が笑った。
水原 香恋
水原 香恋
あ、あの、先輩は、お金がもらえるとしたら何がしたいですか?
花宮 嘉斗
花宮 嘉斗
あー、金銭援助ってやつ?
何がしたいかなあ……
 嘉斗が考え込む。彼はひとしきり考えた後、香恋を見た。
花宮 嘉斗
花宮 嘉斗
そういう水原は何かしたいことあるの?
水原 香恋
水原 香恋
私は……
水原 香恋
水原 香恋
(したいこと……。
ここから出たいし、花宮先輩と付き合えたらなって思うけど……
でもそれはお金でどうこうすることじゃないし……)
水原 香恋
水原 香恋
……私は、お金よりここから出たいです
花宮 嘉斗
花宮 嘉斗
そうだよな
 相槌を打った後、嘉斗は突然表情を曇らせて俯いた。
花宮 嘉斗
花宮 嘉斗
……俺のせいだ
水原 香恋
水原 香恋
え?
ラブリーメリー
ラブリーメリー
さあ、≪第二のゲーム≫の準備ができたメリー
 ぽつりと呟かれた嘉斗の言葉に香恋が首を傾げていると、ラブリーメリーが明るい声を上げながら部屋に戻ってきた。続いて、他の参加者たちも探索から戻ってくる。
ラブリーメリー
ラブリーメリー
≪第二のゲーム≫の部屋に移動するメリー
花宮 嘉斗
花宮 嘉斗
自由時間、思ってたより短かったな。
……俺たちも行こうか
水原 香恋
水原 香恋
(聞き返すタイミング無くしちゃったな……。
「俺のせい」って、どういう意味なんだろう……)
 嘉斗に手を引かれて立ち上がり、香恋はもやもやとした気持ちを抱えながら、みんなに続いて歩きだした。

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