第5話

第二のゲーム
3,302
2024/02/21 09:00
 案内されたのは、真っ白な部屋だった。≪第一のゲーム≫同様、各ペアに一部屋ずつ振り分けられた。室内には広いテーブルと二枚のホワイトボート、大きなモニターがあるだけ。

 ≪第一のゲーム≫が終わった直後のことを思い出す。モニターに映し出された京たちの最期。落ちてきた天井と、悲鳴と、溢れていた真っ赤な血液。

 ぞくりと背筋が震える。
水原 香恋
水原 香恋
(もし失敗したら……殺されるのかな)
花宮 嘉斗
花宮 嘉斗
大丈夫、今回も落ち着いてやれば上手くいくはずだから
 耳元で嘉斗が囁いてくれる。
水原 香恋
水原 香恋
(そうだ、先輩に心配かけないって決めたんだ……)
 香恋は頷いて、目の前のモニターを見据えた。
ラブリーメリー
ラブリーメリー
今から≪第二のゲーム≫を始めるメリー!
 相変わらずの明るい声が、室内に響き渡る。
ラブリーメリー
ラブリーメリー
≪第二のゲーム≫は理解度チェックメリー。
出された質問にそれぞれ回答して、
ペアで答えを五問揃えられたらクリアメリー
水原 香恋
水原 香恋
(このホワイトボードに答えを書くってことかな……。
難しくないと良いけど……)
ラブリーメリー
ラブリーメリー
ただし!
制限時間以内にクリアができなければ……
 ラブリーメリーが片手を上げると、天井から機械のような音が聞こえ始めた。天板が動き出し、隙間から現れたのは大型の銃。その銃口は真っすぐ香恋たちを狙っている。
ラブリーメリー
ラブリーメリー
この銃で撃ち殺すメリー
 ニヤニヤとラブリーメリーが笑っている。
水原 香恋
水原 香恋
(さっきのゲームは私のせいで時間を無駄にしたんだ。
今回こそ、しっかりしないと……!)
 モニターの上部に制限時間が表示される。
ラブリーメリー
ラブリーメリー
それでは、スタートメリー!
 ラブリーメリーの声を合図に、タイマーが進みだす。画面に、ぱっと最初の質問が表示された。
モニターの表示
『今行きたいところは?』
花宮 嘉斗
花宮 嘉斗
……もっとやばい質問が来るかと思ったけど、
そうでもないんだな
 嘉斗が笑って、ボードにさらさらと何かを書いていく。
水原 香恋
水原 香恋
あ、えーっと、えーっと
水原 香恋
水原 香恋
(今行きたいところ!? 
簡単だけど、答えを合わせないといけないんだよね!?
家には帰りたいけど、そういうことじゃないような……。
出かけたい場所とか!?
だとしたら……遊園地とか水族館とか……? あ、動物園とか!?
先輩はどこに行きたいんだろう……)
ラブリーメリー
ラブリーメリー
ボードオープンメリー
花宮 嘉斗
花宮 嘉斗
『家』
水原 香恋
水原 香恋
『映画館』
ラブリーメリー
ラブリーメリー
失敗メリー
水原 香恋
水原 香恋
あれ!? 家!?
花宮 嘉斗
花宮 嘉斗
水原なら家に帰りたいって言うかと思ったんだけど……
水原 香恋
水原 香恋
(最初に思ったこと書けばよかった……!
次はしっかりやらないと!)
水原 香恋
水原 香恋
(どうしてこんなに答えが合わないの……?)
 意気込んだものの、ことごとく嘉斗と答えが合わずにいた。ペンを握りしめ、香恋は真っ白なボードを見つめる。
水原 香恋
水原 香恋
(いや、私が多分変なこと書いてるんだ……)
 モニターに映されている次の質問は『休日にしたいことは?』。
水原 香恋
水原 香恋
(何書けばいいか分からなくなっちゃった……)
ラブリーメリー
ラブリーメリー
制限時間、あと半分メリー!
 ラブリーメリーの声が、やけに明るく響く。
水原 香恋
水原 香恋
(どうしよう……)
花宮 嘉斗
花宮 嘉斗
水原、直感で書いていいよ
水原 香恋
水原 香恋
え、でも……
花宮 嘉斗
花宮 嘉斗
いいから、俺の言うこと信じてみて
水原 香恋
水原 香恋
(先輩の言うこと……私が、休日にしたいこと……
デスゲームが無かったら、本当は……)
ラブリーメリー
ラブリーメリー
ボードオープンメリー
花宮 嘉斗
花宮 嘉斗
『猫カフェに行く』
水原 香恋
水原 香恋
『猫カフェに行く』
水原 香恋
水原 香恋
そろった!
 声を弾ませると、嘉斗も嬉しそうに微笑みかけてくる。
花宮 嘉斗
花宮 嘉斗
この調子でクリアしよう
モニターの表示
『好きな動物は?』
花宮 嘉斗
花宮 嘉斗
『猫』
水原 香恋
水原 香恋
『猫』!
水原 香恋
水原 香恋
(もしかして、先輩が合わせてくれてる……?)
 二人の答えが合いはじめ、順調に質問に答えていく。
ラブリーメリー
ラブリーメリー
クリアメリー!
 ラブリーメリーの声に、香恋はほっと息を吐き出した。
 がちゃんと音を立てて、扉が開く。促されるように廊下へ出て、二人は最初の間へと歩き出した。
水原 香恋
水原 香恋
先輩、合わせてくれたんですね。ありがとうございます
花宮 嘉斗
花宮 嘉斗
まあ、合わせたっていうか……
水原と話してたことが聞かれただけっていうか……
水原 香恋
水原 香恋
覚えててくれたんですね
 ふふ、と香恋が笑うと、嘉斗もはにかんで見せた。
三好 千隼
三好 千隼
香恋ちゃん、嘉斗くん、クリアできたんだね!
良かった~!
 最初の間に戻ると、真っ先に声を掛けてきたのは千隼だった。部屋には瑠華・玲ペアと壱・りるペアの姿もある。
水原 香恋
水原 香恋
(良かった、みんなクリアできたんだ……。
あれ……?)
 広い部屋を何度も見回す。しかし、琥太郎と大和の姿がどこにもない。
水原 香恋
水原 香恋
(もしかして……)
 嫌な予感がする。心臓が早鐘を打ち、全身から血の気が引いていく。
ラブリーメリー
ラブリーメリー
≪第二のゲーム≫が終わったメリー!
 嫌な予感を後押しするように、ラブリーメリーが軽快に現れ、明るい声で呼びかける。
ラブリーメリー
ラブリーメリー
今回の脱落者は真壁琥太郎・辰巳大和ペアメリー
 目の前のモニターに、琥太郎と大和の姿がぱっと映し出された。
水原 香恋
水原 香恋
(やっぱり、そうだったんだ……)
 画面の中の大和はずっと俯いていて、その肩を琥太郎が抱いている。
 モニターには『玉子焼きは甘い派? しょっぱい派?』と表示され、手元のボードには『甘い派』『しょっぱい派』とばらけている。
辰巳 大和
辰巳 大和
ウチら、思ってたよりもお互いのこと知らなかったんだね
真壁 琥太郎
真壁 琥太郎
それは……
辰巳 大和
辰巳 大和
ま、もともと住む世界も違ったし。
親父たちの言うとおりだったってことかな……
 スピーカー越しに二人の声が聞こえてくる。
辰巳 大和
辰巳 大和
ウチさ、コタが思ってるより強くないんだ。今だって、すごく怖い。
京くんたちが亡くなったときも、壱さんに詰め寄られたときも……
真壁 琥太郎
真壁 琥太郎
どうして、言わなかったんだ
辰巳 大和
辰巳 大和
だって、コタに情けないって思われたくなかったし
真壁 琥太郎
真壁 琥太郎
思うわけないだろ!
いや……気付けなかった俺の落ち度だ
 モニターの中で、琥太郎がうなだれる。その頭を、大和が優しく撫でた。
辰巳 大和
辰巳 大和
こんなことして、何が愛の証明だって思ってたけど……
ちょっと納得しちゃったな
真壁 琥太郎
真壁 琥太郎
それでも、……死んでも大和のことを愛してる。
それが、俺の覚悟だ。親父さんにぶん殴られた時から、ずっと
辰巳 大和
辰巳 大和
……やっぱ、ウチが見込んだおとこだよ、琥太郎は
 大和が柔らかく微笑んだ。
ラブリーメリー
ラブリーメリー
約束通り、二人にはここで死んでもらうメリー
 空気を壊すように、能天気で場違いな声が響く。
 ラブリーメリーの声に合わせて、モニターに映る銃口が、琥太郎と大和の方を向いた。二人は手を繋ぎ、銃口を見据えている。二人が話していた『覚悟』という言葉を、香恋は思い出した。
水原 香恋
水原 香恋
そんな……
 きゅっと目を閉じる。怖くてたまらない。また、目の前で誰かが死んでしまう。
花宮 嘉斗
花宮 嘉斗
水原、大丈夫だよ
 モニターが見えないように嘉斗に抱き寄せられる。
 香恋に辛い場面を見せないように、音を聞かせないように、嘉斗がぎゅっと包み込んでくれる。
水原 香恋
水原 香恋
(……このままじゃ、きっとだめだ。逃げてるだけだもん……)
 香恋は顔を上げると、そっと、嘉斗の身体を押し返した。抱きしめてくれていた腕が緩み、驚いた様子の嘉斗と目が合う。
水原 香恋
水原 香恋
私も、ちゃんと向き合います
花宮 嘉斗
花宮 嘉斗
……そっか
 その瞬間だった。バン、と銃声が轟いた。モニターに映っているのは、額から血を流している琥太郎と大和の姿。さらに銃撃は止まらず、二人の顔や体に何発も弾が撃ち込まれる。体中から血を流しながら、二人が床に倒れ込んだ。

 呆然と香恋は立ちすくんでいた。

 画面越しからも、血の臭いがするような感覚に陥る。
 あまりの衝撃に、誰も言葉を発せない。

 沈黙を破ったのは、やはりラブリーメリーだった。
ラブリーメリー
ラブリーメリー
お互いに理想を押し付け合って
相手を知ろうとしなかったからメリー
 ラブリーメリーはけらけらと嗤った。しかし、誰も言い返す気力がない。
ラブリーメリー
ラブリーメリー
また自由時間にするメリー
 そう言って、ラブリーメリーはどこかへと消えていった。
花宮 嘉斗
花宮 嘉斗
水原、大丈夫?
 嘉斗が顔を覗き込んでくる。まだ、脳裏には先ほどの琥太郎と大和の様子が鮮明に残っている。しかし、香恋は顔を上げると、嘉斗の手を引いた。
水原 香恋
水原 香恋
(私だって、変わらなきゃ。『覚悟』を決めるんだ)
水原 香恋
水原 香恋
黒幕の手がかりを……探しに行きませんか
 本当は、怖くてたまらない。しかし、いつまでも逃げていてはいけないと気づかされた。このまま何もせず怯えているのは、きっと黒幕の思うつぼだ。

 身体の震えを抑えつけるようにぐっと拳を握り締め、嘉斗をまっすぐ見つめる。
水原 香恋
水原 香恋
(それに、どうして私たちが巻き込まれたのか、知りたい)
花宮 嘉斗
花宮 嘉斗
頼もしくなったな
 嘉斗は目を丸くしたあと、柔らかく笑った。香恋もつられて表情を緩める。
 二人が扉に向かって歩き出した時だった。
白井 瑠華
白井 瑠華
お待ちいただけませんか
 振り返ると瑠華と玲がこちらを見ていた。
 香恋たちが振り返るのを待って、瑠華は再び口を開いた。
白井 瑠華
白井 瑠華
皆さんにお話があるのです。よろしいでしょうか?

プリ小説オーディオドラマ