逃げ続けて、私たちはいつしか人のいない山の裾の森に辿り着いた。
あてもなく彷徨う蝉の群れが、私たちの間の沈黙を埋めた。
疲れて、喉もカラカラで、私も君も、黙り込んでいた。
私の視界は揺れだしていた。
脱水症状だったのだろう。
私たちを探す声はどんどんと近づいてきた。
そして君はふと真剣な顔をして黙り込みナイフを取った。
私の問いかけには答えず、君は黙ったままだった。
さっきよりも近いところで声がした。
そして君は口を開いた。
そこから発せられた声は酷く掠れていた。
待って、と私は叫びたかった。
そして君は首を切った。
君は笑っていた。
それはまるで、まるで何かの映画のワンシーンのようだった。
そして君は息を引き取った。
白昼夢を見ている気がした。
気づけば僕は捕まっていた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!