第9話

エピローグ
66
2021/07/01 20:00
君が居なくなってからも、時は過ぎていった。
ただ暑い暑い日が過ぎてった。
頭のおかしいクラスメイトもネグレクトな母親もここにいる。

なのに。

君がどこにも見つからなくって。
君だけがどこにもいなくって。

何度も私は君を探した。

誰もが平然として生きてる。

君が死んだのに。

私はお葬式に出なかった。

君が死んだこと、認められなかった。

いや、認めたくなかった。

そして私は君を"作った"。

逃げたかった。

君がもういないんだっていうその真実を認めたくなかった。

そして君に対する罪悪感と独りじゃ抱えきれない苦しみに、後悔と、
何かをなくした消失感だけが残った。

ごめんねって、何度も謝った。

あの夏の日を、今でも鮮明に思い出す。

私はずっと探してた。

君に言いたいことがあったんだ。

九月の終わりに思い返した。

六月のあの日を繰り返す。

あの日香った、雨の匂いを思い出しては泣きたくなった。

君に言い残したことがあったんだ。

今日、私はそれを伝えに来たんだ。
星火 蓮子
星火 蓮子
...誰もが同じなんだから、
星火 蓮子
星火 蓮子
誰も何も悪くないよ。
星火 蓮子
星火 蓮子
君は何も悪くはないから。
星火 蓮子
星火 蓮子
もういいよ。
星火 蓮子
星火 蓮子
投げ出してしまおう。
星火 蓮子
星火 蓮子
...そう言ってあげられなくて、ごめんね。
星火 蓮子
星火 蓮子
...私は、前を向くよ。
星火 蓮子
星火 蓮子
前を向いて歩いていく。
それがきっと、私にできる、最大限の美琴への恩返しだから。
星火 蓮子
星火 蓮子
ありがとう、美琴。
そして私は合わせていた手を解き、閉じていた目を開く。

目の前のお墓を一度じっと見つめ、立ち上がった。
???
...蓮子。
隣の彼に声をかけられ、そちらを向く。
星火 蓮子
星火 蓮子
ん?何?
???
はい、ハンカチ。
そう言って、彼はハンカチを差し出した。
星火 蓮子
星火 蓮子
え?
???
涙、拭いて?
そう言われて頬に触れると、指先が湿った。
星火 蓮子
星火 蓮子
え?嘘、私泣いてる?
星火 蓮子
星火 蓮子
やだな、泣きたくなんてないのに...。
美琴に、泣き顔なんて見せたくなかったのに。
???
...いいんだよ、泣いて。
???
今泣いておかないと、
これからその涙をずっとため込んだままになっちゃって
幸せになんてなれないよ。
星火 蓮子
星火 蓮子
...私なんかが、幸せになっていいのかなぁ...?
そんな弱音を吐く私に、彼はため息を吐いた。
???
...はぁ。
???
あのね、その
???
芥原さんは生きてって言ったんでしょ?
私は、コクリと頷いた。
???
それなら、不幸のまんま生きてたら、その願いは叶えてあげられないよ?
星火 蓮子
星火 蓮子
ぇ...
???
人は、幸せでなければ死んでいるのと同じだ。
幸せなときこそ、蓮子は生きているって言えるでしょ?
???
それに、
???
"愛されなかったということは、生きなかったことと同義である。"
???
ルー・サロメっていう作家の残した言葉でね。
???
蓮子たちは、今まで愛されなかったって言ってただろ?
???
なら、
???
芥原さんは、蓮子に愛されて、それで初めて"生きる"ことができたんだ。
???
自分を生きさせてくれた人には、幸せになってもらいたいだろ。
???
蓮子もそう思っているからこそ、悲しんで、苦しんでるんだろ?
???
きっと、芥原さんも最後は幸せだった。
???
だから、次は蓮子の番だ。
星火 蓮子
星火 蓮子
私の、番...?
???
そう。
蓮子が幸せになることで、きっと彼女は安心する。
???
だから、彼女のためにも幸せになりなよ。
星火 蓮子
星火 蓮子
...うん...。
ありがとう。

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