第32話
私も戦う!
ひとしきり楽しんだようなので、もう下ろせと本気で睨む。
だが、エドガーは私を離そうとしなかった。
そもそも、何故ここにいるのだ。
真っ昼間だっていうのに、外にでるなんて珍しい。
「怖ければ、目を瞑っていなさい」
「は?」
何でそんな命令を、と思う。
瞬間。
ドカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!
轟音が鳴り響き地面が揺れる。
埃と砂が舞い上がり、風圧に飛ばされそうになった。
エドガーの腕が私を押さえていなかったら危なかったかもしれない。
恐る恐る目を開ければ、瓦礫が散乱していた。
目の前には、ルカ、メリー、ギルバート、エドガー、私を守るようにして先頭に立っているザルクと、エドガーの右腕であるジェイムズが立っていた。
武器を振り、瓦礫を弾き飛ばしてくれたらしい。
「どういう……こと」
「敵のグループが攻めてきたんだ。カグツキ、っていうグループなんだが、夜狼とは長く喧嘩をしていてね……でも、こんなにド派手なのは初めてだ」
「……」
「怖いか?」
怖い。怖くて堪らない。
「時間稼ぎくらいはする。ガキどもはそこの騎士と一緒に帰れ。ルカは貧民街の奴等と一緒に避難しろ」
的確な指示だと言うことは理解している。
でも。
「嫌」
駄々っ子のような我が儘でしかないことはわかっているが、そう言わずにはいられない。
「貴方、戦えるの? 武器だってまともに持っていないじゃない。今生の別れなんて真っ平よ。夜狼には生き残ってもらわないと私が困るの」
エドガーは、初めて本気で困った表情を見せる。
こいつが私に弱味を見せるなんて珍しい。
「お前の方が戦えないだろう」
「戦える。戦うわ」
それに、私がいれば最大の戦力であるザルクも一緒に戦ってくれるだろう。
「……わかったよ。どうせ、体験してもらおうと思っていたし、内緒にされて動かれるよりよっぽどいい。ただし、俺たちから絶対に離れるなよ」
「わかった」
エドガーの一人称が変化する。
表の上品そうな顔をかなぐり捨てると、途端に野性味を帯びた顔つきになる。
「そういうことだから、メリー、ルカ、ギルバートは避難を──」
「「「嫌だ(です)!!」」」
……。
「お前だけ戦わせるわけないだろう!? 俺は騎士見習いだぞ! 一緒に戦う!」
「お嬢様から離れませんから!」
「バカなこと言うな!」
どうしよう。
今度は私が困ってしまう。エドガーに助けを求めたが、彼は目映い笑みを返しただけだった。
助けてくれる気はないらしい……。