前回のあらすじ…ヒーローと初対面
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まさか、こんなところで出くわすとは思ってなかった。
ギルバート・ブラッドリー。
ブラッドリー子爵家長男にして後に天才剣士と呼ばれる一人。
ヒロインの保護者的な立ち位置のザルクとは違い、彼は正真正銘『ヒーロー』。
小説本編に関わってくる大切なキャラクター。
因みに、小説では私の護衛騎士をしていて、ワガママ放題の私のことが大嫌いだった。
だけど。
ヒロインによって心が洗われてから、ヒロインに心酔。
護衛どころか、私を憎むようになり、最終的に私を断罪するべく奔走した。
私にとっては関わりたくない人の一人で、もし護衛につけられたら愛想笑いでもしていようと思っていた。……だけど!
この流れは……
「あぁ、ちょうど良いところに来たな、ギルバート。レベッカお嬢様が今度から一緒に剣を習うことになる。よろしく頼むぞ」
「い、いや私は……」
ギルバートと関わるなんてとんでもない。
急いで断ろうと口を開くが、すぐにギルバートに遮られた。
「ふーん。あ、そう。好きにすれば?」
そして、ギルバートは冷めた目で私を見る。
「三日もったら褒めてやるよ」
……カチン。
「はぁ!? バカにするのもいい加減にしてくれる? 上等よ! 私の覚悟を見せてやるわ! すぐにあなたより強くなってぎゃふんと言わせてやる!」
……嘘でしょう。
頭に血がのぼり、カッとなって言ってしまった。
まるで小説のレベッカのように。
寒気に震えた。
実は、なんだか頭に血が上ることが多くなってきた気がするのだ。
小説本編の始動に向けて、ズレた設定を修正しようとしているように。
私の性格が塗り替えられていく。
顔を青くして考え込む私に何を思ったのか、ギルバートは私の肩を叩いた。
「今更後悔したって遅いぞ。
俺は超絶強いから覚悟しとけ?」
いや、やっぱりこいつムカつくわ。
ふん。
精神年齢はあなたよりもずっと上なのよ。
しかも、話術巧み!
「精々負け惜しみの言葉でも考えておくことね」
髪をさらりと流して、私は微笑む。
関わったらダメ、なんて言葉はすでに遠くに放り投げて忘れてしまった。
だって、初対面のレディをバカにする礼儀知らずには制裁を与えないとダメでしょう?
少しずつ、塗り替えられていく性格に。
恐怖を抱く。
もう結構変えているはずなのに。
死への最短ルートを辿っているような気がして──
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。