第45話
【閑話】バレンタイン・デイ
本編が苦しすぎるので、世間で盛り上がるイベントに乗っかってなんとか楽しいお話を書きたいと思いました。因みに苦しいターンはこれからも続きます。おい。
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レベッカ・ドランバーグ。
幼いながらに人々を魅了する彼女が話題の中心になることは珍しくない。
「えー、コホン。では、第一回バレンタイン会議を始めます」
エドガーの宣言により、集った人々は神妙な顔で視線を交わす。
バレンタイン。
それは女性が、意中の男性にチョコレートを送るという異国のイベントである。
お菓子作りを好むレベッカが、小さなチョコレートを夜狼の皆に配るというイベントが発生したことは必然だったのだろう。
しかし、それだけではなかった。
彼女は小さなチョコレートとは別に、大きめのハートのチョコレートを持っていたのである。
どう考えてもこれは本命チョコというやつだろう。
それを目敏く見つけた男どもが、こうして一同に会し、ライバルを見定めているというわけだ。
因みに参加者は、ある程度レベッカと親しい男性に限られる。
エドガー、ジェイムズ、ルカ、ギルバート、ザルク。
ザルクはギルバートに引っ張ってこられただけで、あくびをしているあたりこの議題に関心がないのだろう。
つまり……ザルクはあり得ないのか?
それは否である。どこからの情報かわからないが、彼はレベッカが唯一半裸を見た男性であり、レベッカに自分のパンツを渡したという変た……ゴホンゴホン。
ともかく、レベッカが彼のパンツや半裸にときめいた可能性は十分にあるのだ。
しかも彼はレベッカと最も付き合いが長い男性である。侮れない。
彼を連れて来たギルバートは、剣の才能を持つ将来有望な男子だ。
やや長い紫色の髪を後ろで束ね、きりりとした顔つきは騎士として兜を被り、隠してしまうのが勿体ないほど整っている。
この中で最もレベッカと長い時間を過ごしている。
そして、ルカ。
ヘラヘラ笑っているが、エドガーも認める頭の良さを持つ。大きくなればエドガーと同類になりそうなタイプだった。こいつはレベッカに抱きつかれたことがあるらしい。油断ならない。
ジェイムズ。ジェイムズはスキンヘッドだ。以上。
「やはり、あのチョコは私のもので間違いないようですね」
エドガーは柔和な笑みを浮かべた。
議論していた男どもが不満を露にこちらを見るが、エドガーには確固たる自信があった。
落とそうと思って落とせなかった女性などいない。
眉目秀麗、頭脳明晰、武芸も得意でさらにモテる。何もしなくても好意を向けられる己に、エドガーは絶対の自信を持っていた。
さらに言うなら、最近ちょっと囚われのお姫様だったのだが、それを王子様が助けてくれた。役割が逆な気がしなくもないが恋愛物語としてはよくできていると思う。
変態騎士とハゲとがきんちょどもに負ける自分ではない、と。
自信を持って宣言できる。
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愚かな男たちは知らない。
「これ……私に、ですか?」
「うん。気に入ってくれると良いのだけど……」
「すごく嬉しいです! ありがとうございます、お嬢様!」
レベッカ手製のハートのチョコレートが、すでにメリーの手にあることは。