結局、私は全員を連れて奴隷商のアジトに向かうことになった。
地下は奴隷が多く鎖で繋がれ、囚人のように捕らえられている。
一階はオークション会場で、客が奴隷たちを競りにかけて買っていくのだ。客層は自国の民から遠い国の民までと幅広い。売れ残ったり、国で売れない事情があったり、芳しい値段がつかない者は他国でも売るのだ。
二階はvip客専用の部屋で、高額な商品を取り扱っているそうだ。
……と、ここまでがルカの話である。
「……なんでこんな短期間で色々調べられるのよ」
「俺の情報網舐めてもらっちゃ困りますよ。元々デファレストについては調べていましたしね」
私の部下がデキすぎる……。
「とりあえず……エドガーとルカが客として入って。合図したら半分は突撃して陽動。その内にもう半分は奴隷たちを一人残らず解放して頂戴」
てきぱき指示を飛ばし、顔を隠すための仮面を身に付ける。
できれば私も客として入りたいけど、この格好では無理がある。
護衛兼人たらしのエドガーと、私に何かあったときにすぐ指示を出せるルカが客として行くのが次善の策だ。
「……行くわよ」
◆◆◆
客として入ったエドガーとルカへの合図のタイミングを計るため、オークションの司会者や客たちの動向に目を光らせなければいけない。
いけないのだが……。
私の人格に前世日本人としての常識が刷り込まれていることもあって、人身売買とは見ていて気持ちの良いものではない。
人を人とも思わず、自分より劣る『物』として見て、その命に値段をつけていく。
これは現実だ。
現実だと、すぐそこで行われていることなのだと意識すると、苦しくて堪らない。
だけど……ここで、私が取り乱すわけにはいかないのだ。
意志を強く持つ。
彼らを助けれるかも私にかかっているのだから。
「──今よ」
エドガーが煙幕を放り投げた。
一瞬の間を置いてパニック状態になった会場に、轟音が響く。
わざと混乱を助長するように、夜狼の半分が侵入した音だ。
会場内に広がった煙のせいで視界は悪いが、訓練した彼らならなんてことはない。
煙が晴れた後にも暴れ、できるだけこれを長引かせてくれるはずだ。
警備も今は表に回ることだろう。
手薄になった裏……すなわち、地下にこそ、私たちのするべきことがある。
残った半分を連れ、私はアジトに忍び込んだ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!