薄暗くてじめじめした路地裏。
いりくんだ場所は、ここで生まれ育ったルカのような人にしかわからない迷路のようだ。
反対を押しきって、私は先頭を歩いている。
こういうのは第一印象が大事なのだ。
ブルブル怯えていることを悟られてはいけない。
悪役令嬢らしく気丈に振る舞うのだ。
「ひぇぇ……レベッカ様ぁ……」
半泣きになりながらも私を守ろうとしてくれるメリーが心強い。
──そして。
「ここだよ」
ルカは一軒の酒場の前で止まった。
酒場の名前は『夜狼』。
中からは男たちの騒がしい声が聞こえてくる。
私は意を決して──
「……やっぱり帰ろうかな?」
ルカがじとっとした目で見てきた。
あぁもう!
わかったわよ!
やればいいんでしょ! やれば!
そうだ、演じるつもりになればいいのよ。
私は悪役令嬢なんだもの。悪役令嬢レベッカ様が悪役令嬢レベッカ様を演じられないわけがない。
私は悪役令嬢、悪役令嬢、悪役令嬢……ッフー。
自己暗示をかけた後、私は扉をノックした。
──コンコン。
乾いた木の音。
それだけで、店内は静まり返る。
うー。怖い。だけど、レベッカ行きまぁす!
バン、と勢い良く扉を開け放つ。
すでにこちらに注目が集まっていたらしく、いかつい顔の男……二十人程度だろうか。
そのくらいの人数が私に注目した。
むさ苦しい煙草と酒の匂いが充満していて鼻が曲がってしまいそうだ。
「私はレベッカ・ドランバーグ。今すぐ『夜狼』のリーダーを呼んで頂戴!」
私がそう言うと、一人の屈強な男が歩み寄ってきた。
後ずさりそうになるのを必死で堪えて男を見上げる。
ゆうに二メートルはあるのではないかというその男はスキンヘッドで入れ墨がほられていた。
筋骨隆々で、まさに強者、という感じ。
目もつり上がり、外見の強さで言えばザルクにも勝るだろう。
ザルクがあくびをしそうなほどのんきな表情なので勝てる相手……ってことよね?
はぁ、不安だわ……。
「リーダーは客室で待っています、レベッカ殿。ご同行願いますが」
待っている?
私はルカを見る。
ルカはさらりと目をそらしてきた。
売ったな。私が夜狼を訪ねに来たっていう情報。
いつの間に。
まぁいい。
あちらが準備万端でも、こっちだって準備してきているのだから。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。