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「夜狼のメンバーの顔と名前、もう覚えたんですか?」
「貴方が覚えてって言ったから覚えたのよ」
夜狼トップはエドガー。
ナンバーツーはスキンヘッドのジェイムズだ。
基本私は、夜狼のメンバーといえども、公爵令嬢であるし、何もかも違うので、この二人以外と関わりはほとんどない。
「それに、クッキーも焼いてきたの」
「貴女がですか?」
「勿論」
エドガーはひょい、とクッキーをつまんで口にいれる。
「うーん…60点」
「はぁ?」
「可もなく不可もなく。これならメンバーに振る舞っても良いでしょう」
「何様よ貴方」
「番長様です」
「うぐぅ」
60点って何よ……これでも一生懸命焼いたのにさ。
「メンバーと仲良くなろうとしてるんですよね」
「えぇ。やっぱりメンバーを知ることは大切よね」
「嘘ですね」
はぁ?
「貴女は何か打算があって夜狼に取り入ろうとしている」
その通りだ。私は追放されたあと、彼らによろしく頼んでおかなくちゃいけないのだし。
「だったら何よ。悪い?」
「……甘いですね。カマをかけられたらしらを切りなさい。笑顔で対応しなさい。感情を制御しなさい。全てを予想して先回りしなさい」
本当に余計なお世話だよ。
私はため息をついて、嘘の笑顔を張り付けたままのエドガーを一瞥する。
色気と貴族然とした立ち居振舞いの彼だが、心に猛獣を飼っていることが伺える。
こいつは、どれだけ己を殺しているのか。
「……おっと」
首筋のショールが少し乱れていた。それをエドガーが直す。
「……あまり、弱味を見せるなと言いたいところですが。貴女の場合、助けを呼ぶことも覚えた方が良いかと」
両親につけられた首の痣を見られたらしい。
「……助けてなんて言って、助けてくれる人がいるわけがない」
「私は、貴女のためなら何でもしましょう」
……。
「不気味ね……なに? そんなに優しくして、打算でもあるの?」
エドガーは完璧な笑顔で微笑んだ。
はぁ。敵わないな。それが悔しい。
「大丈夫。この痣は、転んだだけだから」
果たして転んで首にこんな痣ができるのかわからないが。
それで貫き通す。
「左様ですか。それはお節介を。お許しください」
「別に」
「クッキー、きっと皆喜びますよ」
エドガーが、その一瞬だけ。
偽物でない笑顔を浮かべていた。
儚げなそれは幻のように霧散する。
エドガー、とは。
私の話術の師であり、
フェロモンを振り撒く男であり、
そして。
夜狼を心から大切に思っている人だった。
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。