第96話

ギルバートの決心
1,112
2021/10/30 11:00
 戦った後の興奮した状態で、半ば勢いで言った告白。
 あれから二週間。
 私はまだデファレストにいた。ギルバートやルカ、夜狼もいる。

 サラは両親と再会できたと手紙を送ってきたし、メリーとザルクも手紙が……50通くらい送ってきた。みんなに心配をかけたけど、敵を騙すにはまず味方から。
 しおらしく浚われてあげたのだ。
 場合によっては……本当に、皆を守ってアランと結婚しても良かったんだけど。

 コンラッドの頼りなさ具合に、今まで自分が頼ってきた背中がどんなにすごいものか、一時の……ギルバートの失明による恐怖心から、色々と迷っていたものを吹っ切れた気がする。
 極めつけは、アランとの恋バナだ。

 私には、好きな人がいる。

 フェロモンたっぷりで、ふざけた大人で、でも……すごく、優しくて。頼りになる人。

 キスをしたのを思い出しただけで胸がとくん、と高鳴る。
 まぁ……エドガーは私の頼みのせいで色々あって国にとんぼ帰り。報告を上げたり、夜狼のしでかしたことを揉み消したりと色々奔走している。

 忙しいのはわかっているけど……私のせいだし……。
 でも、キスをしておいて手紙の一通も届かないのは、やっぱり不安になる。

 私みたいにエドガーもあの場の勢いでやったことで、実は私のことそんなに好きじゃない、とか。
 だっていかにも遊び人って感じがするもの。
 私の身分からして妻にはなれるだろうけど、愛人がたくさんいたりしたらどうしよう。

「……カ。レベッカ!」

「……ん!? あ、ごめん。ぼーっとしてた」


 薄紫の目が不安げに瞬いている。

「いや、別に……良いんだけど、さ」
 ギルバートがこんな風に何かを遠慮するなんて珍しい。

「別に良くないよ。気になることがあるなら言って。何でも聞くよ?」
「……俺、あの時お前に仕えるって言ったけど、お前を守ることは……難しい、んだ」

 失った片方の目。
 それが戻ることは永遠にない。

 ようやく脳のスイッチが入る。

「それで、俺はデファレストに残りたい。ここは奴隷が多く売られていた。優秀な剣士も祖国よりたくさんいる。そんな中で片目の剣士を見つけたんだ。隻眼でも十分に戦い方があるって知ったんだ。だから……ルカに頼んで、コネを作ってもらったから……隻眼の剣士を師匠に仰いでみようと思ってる」

 でも、と。
 ギルバートが真っ直ぐに私を見る。

「一時的だ。お前を守れるくらい強くなったらまた戻ってくる。ずっと、お前に仕える」

 だから、デファレストに残るのを許してくれないか、と。
 尋ねるギルバートに、私は大きく頷く。

「うん。待ってる。何年でも、何十年でも」

 私たちは、それぞれの道を見つけ初めているみたいだ。

 

プリ小説オーディオドラマ